一 春
二年生
うれしい、うれしい、 二年生、 春 だ、春 だと、 小鳥が うたふ。
うれしい、うれしい、 二年生、 さくら、さくら だ、 野山は 花 だ。
花まつり
すみれ、たんぽぽ、れんげ草、 花の おやねが 美しい。
あま茶の 中から ひょっこりと、 お出に なったか、おしゃかさま。
天上 天下を ゆびさして、 お立ちに なって いらっしゃる。
小さな ひしゃくで お茶 くんで、 かけて あげましょ、おしゃかさま。
てふも 小鳥も たのしさう、 今日は あなたの 花まつり。
二 らくかさん
勇さんと 正男さんが、かみで らくかさんを こしらへました。 「さあ、野原へ 行って とばさう。」 二人は、それを 持って 出かけました。 勇さんが、らくかさんを たたんで、いとを くるくる まいて、それを 空へ 向かって 力いっぱい なげました。すると、開かないで そのまま 落ちて 來ました。 「おもりが かるいの だね。」 と、勇さんが いひました。 「こんどは、ぼくのを とばすよ。」 といって、正男さんが、同じやうに 空へ なげました。開くには 開きましたが、すぐに 落ちて 來ました。 「これは 重すぎる。」 と、正男さんが いひました。 二人は、よささうな 石を あちこちと さがしました。そこへ、春枝さんが、犬を つれて あそびに 來ました。 「何を さがして いらっしゃるの。」 「らくかさんに つける 石を、さがして ゐるの です。」 と、勇さんが いひました。 「ぢゃ、これは どう でせう。」 と いって、春枝さんは ガラス玉を 二つ 見せました。 「これなら、ちゃうど いいかも しれない。」 それを おもりに つけかへてから、勇さんが あげて みました。すると、らくかさんは ぱっと 開いて、ふはり ふはりと 落ちて 來ました。 「うまい、うまい。」 こんどは、二人で いっしょに あげました。 「一、二の、三。」で、たかく あげると、どちらも ぱっと 開きました。 ちゃうど その時、南の 方から 風が 吹いて 來て、らくかさんが 吹きあげられました。さうして、どんどん 北の 方へ とばされて 行きました。勇さんも 正男さんも、その あとを おって 行きました。 「やあ、らくかさんぶたい だ。すすめ、すすめ。」 と、てんでに 大きな こゑで いふと、犬も わんわんと ほえて、まっさきに 走って 行きました。 「ぐんよう犬も とつげき です。」 と いって、春枝さんも ついて 行きました。 らくかさんは、草の 中へ しづかに 落ちました。
三 國引き
大昔の こと です。 神さまが、國を 廣くしたいと お考へに なりました。 神さまは、海の 上を お見わたしに なりました。東の 方の とほい、とほい ところに、あまった 土地の あるのが 見えました。 神さまは、その 土地に 太い つなを かけて、ありったけの 力を 出して、お引きに なりました。 「こっちへ 來い、えんやらや。」 「こっちへ 來い、えんやらや。」 かけごゑ 勇ましく お引きに なりました。その 土地が 動きだして、大きな 舟のやうに、ぐんぐんと こっちへ やって 來ました。 神さまは、その 土地を つぎあはして、國を 廣く なさいました。 神さまは、また 海の 上を お見わたしに なりました。 こんどは、西の 方の とほい、とほい ところに、あまった 土地の あるのが 見えました。 神さまは、それに つなを かけて、 「こっちへ 來い、えんやらや。」 「こっちへ 來い、えんやらや。」 と、力いっぱい お引きに なりました。これも 大きな 舟のやうに 動いて、こっちへ やって 來ました。 神さまは、かうして 國を 廣く なさったと いふことです。
四 二重橋
目の 前に をがむ 二重橋、 けだかい、美しい 二重橋。
おほりの 水は しづかに 明るく、 白い やぐらは くっきりと そびえ、 しげった 松の 間に、 おやねが かうがうしく 見えます。
さくさくと 小じゃりを ふんで、 女學校の せいとさんが 來ました。 きちんと 並んで、さいけいれいを して、 こゑを そろへて 「君が代」を 歌ひました。
私たちも、いっしょに 歌ひました。
五 鯉のぼり
ゆふべの 雨が はれて、日が 氣持よく てって ゐます。 さをの 先の 矢車が からからと なると、鯉が、大きな 口で 思ふぞんぶん 風をのんで、やねよりも たかく 尾を あげます。 尾を おろして 來て さをに つけるかと 思ふと、また はらを ふくらまして をどりあがります。 そのたびに、鯉の かげが 地の 上を およぎます。
六 牛わか丸
月の よい ばん でした。 牛わか丸が、ふえを 吹きながら あるいて ゐました。五でうの 橋に 來ますと、 「待て。」 と いふ ものが あります。 見ると、大きな なぎなたを 持った 大男が 立って ゐます。 牛わか丸は、 「だれ だ。何の 用か。」 と いひました。 「べんけい だ。その 刀が もらひたい。よい 刀を 千本 あつめる つもりで、九百九十九本は 取った。もう 一本で 千本だ。さあ、刀を 出せ。」 牛わか丸は びくとも しません。 「刀が ほしいか。ほしければ 取って みよ。」 と いひました。 べんけいは、なぎなたを ふりまはして 切って かかりました。 牛わか丸は、ひらりと らんかんの 上へ とびあがりました。 べんけいが 上を 切ると、牛わか丸は 下へ とびおります。右を 切ると 左へ とびのき、左を 切ると 右へ とびのきます。べんけいは、へとへとに つかれて しまひました。 その時、牛わか丸は あふぎで べんけいの うでを たたきました。べんけいは、大きな なぎなたを がらりと 落しました。 べんけいは かうさんして、牛わか丸の けらいに なりました。
七 ささ舟
春の 日が、あたたかく 野原の 草を てらして ゐます。小川の 水が、たのしさうに 流れて 行きます。小鳥が、木の 上で 歌を 歌って ゐます。 太郎さんは、ねえさんや 弟たちと、ささの 葉を 取って、ささ舟を 作りました。 「みんなで、ささ舟の きゃぅさうを させよう。ねえさんは、あの 橋の 上で しんぱんを して ください。」 と 太郎さんが いひました。 次郎さんも 三郎さんも よろこんで、めいめいの ささ舟を 持って、小川の 岸に 並びました。 「ようい、どん。」 三人は、いっしょに 舟を 出しました。舟は、すべるやうに 流れて 行きます。 三人は、舟と 並んで 川の ふちを 走って 行きます。草の 葉に 止って ゐた てふてふが、おどろいて とび立ちました。 てふてふが、三郎さんの 舟に 止りました。 舟は、だんだん 橋へ 近づきます。 「ほうら、もう ぢき だ。」 と、三郎さんが いひました。 みよ子さんは、さっと ささの 小枝を ふりあげて、 「三郎さん、一ちゃく。」 と いひました。 「三郎さん、ばんざい。」 と、太郎さんと 次郎さんが いひました。 「三郎さんの 舟には、てふてふの せんどうさんが のったから、かったの でせう。」 と、みよ子さんが いひました。
八 蛙 蛙の 子どもが、川ばたで 遊んで ゐました。 そこへ 牛が 來て、水を のみました。子蛙は、びっくりして うちへ かへりました。 おとうさん蛙と おかあさん蛙に、 「大きな、大きな ばけものが、水を のみに 來ましたよ。」 と いひました。 きんじょに ゐた 大蛙が、それを 聞いて、 「その 大きな ばけものは、わたしくらゐも あったかね。」 と いひました。 子蛙は、 「どうして どうして、今まで 見た ことも ないほど 大きいの です。」 と 答へました。 大きなのが じまんの 大蛙は、うんと いきを 吸ひこんで、おなかを ふくらましました。 「そんなら、このくらゐも あったかね。」 「とても、そんな ものでは ありません。」 「では、このくらゐかね。」 と いって、大蛙は いっそう ふくらましました。 子蛙は、 「をぢさん、およしなさい。どんなに おなかを ふくらましても、かなひませんよ。」 と いひました。 しかし、大蛙は、こんどこそと、力いっぱい いきを 吸ひこみました。おなかは、まるで ふうせん玉のやうに ふくれました。 すると、「ぽん。」と 大きな 音が して、大蛙の おなかが やぶれて しまひました。
九 軍かん
春雄さんは、軍かんが 大すき です。まだ、ほんたうの 軍かんを 見た ことは ありませんが、をぢさんに もらった ゑ を 見たり、をぢさんの お話を 聞いたりして、軍かんの ことは よく 知って ゐます。をぢさんは 海軍の 軍人さん です。 春雄さんは、せんかんや、じゅんやうかんや、くちくかんや、せんすゐかんなどの ことを よく 知って ゐます。 春雄さんに せんかんの ことを 聞くと、かう 答へます。 「せんかんは、一ばん 大きくて、一ばん がっしりした 軍かん です。まるで 海に うかんだ お城のやう です。大きな 大砲が いくつも あって、てきの 軍かんを どしどし うちます。ぼくは、せんかんが 大すき です。」 かう いった あとで、きっと、 「でも、じゅんやうかんは ゆくゎいな 軍かん ですよ、せんかんよりも ずっと 早く 走れて、形が すっきりして ゐて。ぼくは、あれに のって、せかい中の 海を のりまはして みたい。」 と いひます。 「一ばん 早いのは、じゅんやうかん ですか。」 と たづねますと、 「いいえ、それは くちくかん です。小さくて、かるくて、ぐんぐん 走ります。小さい くせに ぎょらいで、大きな 軍かんを やっつけます。」 と 答へます。 「もっと かはったのは ありませんか。」 と 聞きますと、 「それは、せんすゐかんと かうくうぼかん です。せんすゐかんは、魚のやうに 海の 中へ もぐります。かうくうぼかんは、廣い かんぱんから、ひかうきを いくつも いくつも とばします。」 と 答へます。 春雄さんは、をぢさんのやうに、海軍の 軍人さんに なると いって ゐます。
十 お話
水兵さんは 旗 持って、 ぱたぱた ぱたぱた、 お話します。
かうくうぼかんは でんとうで、 ぴかぴか ぴかぴか、 お話します。
でんしんたいの 兵たいさんは、 かちかち かちかち、 お話します。
うちの 赤ちゃん 大ごゑで、 ああ ああ、ああ ああ、 お話します。
十一 むしば
花子さんは、は が 痛いので、ひとばん中 苦しみました。朝に なっても、まだ 痛いのが なほりません。花子さんは、おかあさんと いっしょに、は の おいしゃさまへ 行きました。 おいしゃさまは、すぐ 見て くださいました。 「やあ、二本 並んで むしばが できて ゐる。おくゎしを たべすぎましたね。」 と いって、くすりで 洗ったり、くすりを つけたりして くださいました。 花子さんは、痛いのが 少し なほったやうに 思ひました。 おいしゃさまは、おかあさんに、 「この、前の 方の むしばは、生えかはる は ですが、おくの 方のは、一生 使ふ だいじな は です。それが、かう むしばに なっては いけませんね。」 とおっしゃいました。 それから、 「花子さん、あなたは は を みがきますか。」 と お聞きに なりました。 「毎朝 みがきます。」 と、花子さんは 答へました。おいしゃさまは、 「夜 ねる 前にも、みがくと いいの ですがね。さうすると、こんなに は が わるく ならない でせう。」 と おっしゃいました。 おかあさんと いっしょに、おいしゃさまの おうちを 出た 時、花子さんは、もう は の痛みを 忘れて にこにこして ゐました。
十二 ねずみの ちゑ
「このごろ、なかまの ものが、ねこに 取られて こまる。なんとか して 取られない くふうは あるまいか。」 と、年よりの ねずみが、なかまの ものに いひました。 一ぴきの 若い ねずみが、前へ 出て いひました。 「大きな すずを ねこの 首に つけて、その 音が 聞えたら、逃げる ことに しようでは ありませんか。」 「なるほど、よい くふう だ。」 と いって、みんなは かんしんしました。 年よりの ねずみが いひました。 「それも よいが、だれが、その すずを つけに 行くのかね。」 みんなは だまって しまひました。
十三 川
正男さんの 家の 前に、川が あります。いつも、きれいな 水が 流れて ゐます。正男さんは、この川で 池を 作ったり、魚を すくったりして 遊びます。 正男さんは、このごろ、「いったい、この 川の 水は どこから 來て、どこへ 行くの だらう。これほど たくさんの 水が 流れて、それで よく なくならない ものだ。」と 考へるやうに なりました。 ある日、にいさんに この ことを 聞いて みました。にいさんは、 「川は、遠い 山から 流れて 來て、海へ 行くん だ。」 と いひました。 「どうして、水は なくならないの でせう。」 「ときどき、雨が ふるからさ。」 「そんなら、海は 水で いっぱいに なって、こぼれません か。」 「海は 廣いよ。こんな 川が 何百 流れこんでも、へいき だ。」 と いって、にいさんは 笑ひました。 正男さんは、まだ よく わかりません。それで、おとうさんに 同じ ことを 聞きました。 「それは、にいさんの いふ とほり だよ。この 川を ずっと のぼって 行くと、山と 山が 近よって、せまい 谷に なる。その谷の おくから、流れて 來るの だが、その へんでは、小さな 谷川だ。また この 川を だんだん くだって 行くと、大川に なって、おしまひには、廣い、廣い 海へ 出る。おまへも、いまに その 山や 海へ 行って みると、よく わかる だらう。」 と おっしゃいました。 正男さんは、少し わかったやうに 思ひました。けれども、考へて みると、水が いつも 流れて なくならないのが ふしぎ でした。 こんどは、その ことを おぢいさんに 聞いて みました。 「ほう、よい ところへ 氣が つきました。山には 木が あるね、草も あるね。雨がが ふると、水は、木の 根や、草や、落葉の 間に たまったり、地めんへ しみこんだりして、少しづつ 山から 谷へ、谷から 川へと つたはって 流れる。その 水が まだ なくならない うちに、次の 雨が ふる。それは ちゃうど おぢいさんの げんきな 間に、おとうさんが 生まれる、おとうさんの げんきな 間に、おまへたちが 生まれる、それで、この うちが つづいて いくのと 同じ こと だ。」 と、おぢいさんは おっしゃいました。
十四 一寸ぼふし
一 一寸ぼふしは、都へ 行って、りっぱな さむらひに ならうと 考へました。 そこで、針の 刀を こしに さして、おわんの 舟に のり、はしの かいで こぎながら、川を のぼって 行きました。 二 都に ついて、とのさまの けらいに なりました。 ある日、おひめさまの おともをして、たびに 出かけました。すると、おにが 出て 來て、おひめさまを たべようと しました。一寸ぼふしは、針の 刀を ぬいて、おにに 向かひました。 三 おには、一寸ぼふしを つまんで、一口に のんで しまひました。一寸ぼふしは、おにの おなかの 中を、針の 刀で ちくり ちくりと つつきました。おには、 「痛い、痛い。」 と いひました。 四 一寸ぼふしは、おにの おなかの 中から のどへ のぼり、鼻を 通って 目へ 出て 來ました。目から 地めんへ とびおりました。 おには、おなかも、のども、鼻も、目も 痛いので、あわてて 逃げだしました。その時、だいじな うち出の 小づちを おき忘れて 行きました。 五 うち出の 小づちを ふると、一寸ぼふしは、せいが だんだん 高く なりました。さうして、だれにも まけない、りっぱな さむらひに なりました。
十五 つゆ
つゆに なって、毎日のやうに 雨が ふります。 二日も 三日も ふりつづくと げんきな 太郎さんも、「いや だなあ。」と 思ひます。でも、ときどき 雨が やんで、空が 明かるく なり、かっと 強い 日が さして 來ます。庭の あぢさゐの 花が、ほんたうに きれい です。梅の 實が、黄色く なりました。 今、田うゑの さい中 です。二十センチぐらゐに のびた いねの 苗を、田に きちんと うゑるの です。 「つゆの 雨が ふるので、田うゑが できるの だ。」 おぢいさんが、よく かう おっしゃいます。 小川の 水が ふえて、音を たてて 流れます。太郎さんは、はれまに 小川で どぢゃうを すくひます。 「おぢいさん、つゆは いつまで つづくの ですか。」 「七月の はじめまで だね。つゆが あけると、からりとした 夏が 來るよ。」 「夏」と聞くと、太郎さんは、急に うれしく なりました。せみが なく、水遊びが できる、それよりも、今年は 海へ つれて 行って もらへる。海、海、早く 海へ 行きたいと 思ひました。
十六 金魚
一 ねえさんと 二人で、金魚を 買ひに 行きました。店には、大きな 水をけが あって、その 中に、金魚が たくさん およいで ゐました。 「正男さん、どれに しませう。」 と、ねえさんが いひますと、金魚やさんが、 「さ、これで すきなのを、おすくひ なさい。」 と いって、小さな あみを かして くれました。 ぼくは それを 持って、じっと 金魚を 見ました。どれも これも、かはいくて きれい です。 「どうしたの。早く おきめなさいよ。」 と、ねえさんが いひました。 「どれに しようか。みんな きれい だな。」 と、ぼくが いったので、金魚やさんが 笑ひました。 赤いのを 三びき、赤白の ぶちを 二ひき すくって、ガラスばちに 入れました。 「これを 少し あげませう。」 金魚やさんは、も を ガラスばちの 中へ 入れて くれました。 みどりの も は、しづかに 開きました。 「ぼくが、持って かへるよ。」 ガラスばちを、兩手に しっかり 持って、ぼくは そろそろと あるきだしました。 二 うちへ かへると、おかあさんが、 「きれいな 金魚 ですね。」 と いって、だいを 持って 來て くださいました。ぼくは、その だいの 上に、そっと ガラスばちを のせました。 おとうさんが、 「これは 涼しさう だ。」 と おっしゃいました。 金魚は、やっと おちついたと いふやうに、しばらく じっとして ゐましたが、そのうちに およぎだしました。も の 間を およぎぬけたり、上の 方へ 浮んで 行ったり、下の方へ ななめに 沈んだりしました。時には、花びらのやうに ひろがって 大きく 見えたり、ほそ長く なって 見えたりしました。 ねえさんが、 「正男さんは、金魚と にらめっこを して ゐるのね。」 と いって、笑ひました。
十七 花火
どんと なった。 花火 だ、 きれい だ。 空いっぱいに ひろがった。 しだれやなぎが ひろがった。
どんと なった。 何十、何百、 赤い 星、 一どに かはって 靑い 星、 も一ど かはって 金の 星。
十八 お祭
今夜は 天神さまの お祭 です。私は、弟の 一郎と いっしょに、おかあさんに ついて おまゐりを しに 行きました。 町は にぎやか でした。ちゃうちんの 火が、きれいに 並んで ゐました。新しい ゆかたを きた 人が、おほぜい 歩いて ゐました。 両がはに 店が つづいて、いろいろな ものを 賣って ゐました。氷やと 金魚やが、涼しさう でした。 お宮に 近く なると、人が いっぱい でした。 おかあさんに 手を 引かれながら、おされるやうに して、はいでんの 前へ 出ました。 はいでんの 前には、美しい ちゃうちんが ありました。大きな 梅ばちの もんが ついて ゐました。 おかあさんも、私も、一郎も、いっしょに 拜みました。 かへりに、私は 人形を 買って いただきました。 一郎は、おもちゃの たいこが ほしいと いって、それを 買って いただきました。 一郎は 大よろこび でした。うちへ かへると、すぐ たいこを ならしました。おじぎを したり、小さい 手を たたいたりしては、たいこを ならしました。
十九 きりぎりす
私は、さっきから、せいより 高く のびた 草の 中に、じっと 立って ゐます。ときどき 吹いて 來る 風の ために、草の 葉が 氣持よく ゆれます。 「チョン ギース。」 「ゐるぞ。」と 思ひながら、私は、そっと こゑの する 方へ、二足 三足 進みました。もう、二メートルとは はなれて ゐないやう です。私は、草の 葉を 一枚 一枚 かぞへるやうに、目で さがしました。 「チョン ギース。」 もう、つい そこ です。しかし、いくら さがしても、その すがたが 見えません。 風が さっと 吹いて、草が 一どに 動きました。すると、草の 葉の うらに、ちらと きりぎりすの すがたが 見えました。 「ゐた。」 私は、手に 持って ゐた 竹を、そっと きりぎりすの ゐる 方へ さし出しました。 葉の うらに、きりぎりすは、まだ じっとして ゐるやう です。風が やむと、 「チョン ギース。」 と、いい こゑで また なきました。 竹の 先に ついて ゐる 白い ねぎが、葉の そばに すれすれに なると、きりぎりすは、ひょっこり 動いて、葉の 表へ 出て 來ました。 「うまく 取れますやうに。」 心の 中で いのりながら、ねぎを、きりぎりすの からだに 近づけました。 すると、きりぎりすは、すばやく 竹の 先に のりうつって、ねぎを おいしさうに たべはじめました。 「しめた。」と 思ふと、むねが どきどきします。竹の 先を そっと 引きよせながら、虫かごの 口へ はこびました。きりぎりすは、びっくりした やうに、かごの 中で はねました。 私は、また ほかの きりぎりすを さがさうと、草を 分けて 行きました。
二十 海
一 海へ 來て おかあさん、私は、きのふ をばさんと いっしょに、海へ 行きました。 海は あまり 廣いので、びっくりしました。水は まっさを です。遠い ところで、水と 空が いっしょに なって ゐます。白帆が、いくつも 浮かんで ゐます。汽船も 通って ゐます。 沖の 方から、波が うねって 來て、はまべで、どっと 音を たてて くだけます。そのたびに、白い 布を ひろげたやうに、ひろがります。 海は、いつも 動いて ゐます。海は、生きて ゐると 思ひました。 波うちぎはや 砂はまで、貝を 見つけました。おさらのやうなのや、かたつむりのやうなのや、いろいろ あります。その 中で、つめのやうな 形を した、つやつやと さくら色に 光って ゐるのが、一ばん すき でした。 私は、貝を たくさん ひろって、かへりたいと 思ひます。
二 砂の 山 にいさんと ぼくが、手を つないで、海へ はいりました。波が、ざぶん ざぶんと むねに あたりました。 にいさんは、ぼくの 手を はなして、深い 方へ およいで 行きました。ぼくは、まだ およげないので、淺い ところで 水を とばして 遊びました。 何か 足に さはるので、つかんで みると、はまぐり でした。おかあさんに 見せて あげると、 「まあ、めづらしい。いい おみやげが できました。」 と おっしゃいました。 それから、はまべの 砂で 山を 作りました。すると、波が だんだん よせて 來て、せっかく 作った 砂の 山が、くづれだしました。 「まける ものか、まける ものか。」 と いひながら、砂を どんどん もりあげました。にいさんも かせいして くれました。 波は、あとから あとから よせて 來ます。ぼくらは、まけずに どんどん 砂を もりあげました。
二十一 子馬
子馬よ、 おまへは かはいいね。 おつむを そっと なでて あげませう。
からだは 大きくても、 おまへは まだ 赤ちゃん だね。 おかあさんの あとを おっかけて 行って、 ときどき、おちちを さがすの でせう。
早く 大きく なって、 りっぱな 軍馬に おなりなさい。
二十二 うさぎと たぬき
勇さんと 太郎さんは、ぐゎようしで めんを 作って 遊びました。 勇さんは、ぐゎようしに うさぎの 顔を かきました。耳を 長く かきました。目を 赤く ぬりました。 太郎さんは、それを 見て、 「ぼくは たぬきに しよう。」 と いって、たぬきの 顔を かきました。鼻の 兩わきから 耳へ かけて、茶色に ぬりました。 二人は、はさみで ゑ を 切りぬいて、めんを 作りました。 二人は、めんを つけました。 「さう だ、君、かちかち山ごっこを しようよ。」 と、太郎さんが いひました。 それから 二人は、あつい 紙で、舟を 二つ 作りました。長い ひもを つけて、首へ かけると、舟は おなかの へんに かかります。 「うまい、うまい。うまく できた。さあ、ぼくは うさぎ、君は たぬき だよ。」 と、勇さんが いひました。 「ぼくが たぬきか。よし、やらう。」 うさぎの 勇さんは、少し 考へてから いひました。 うさぎ「たぬき君、よい お天氣 だね。これから、いっしょに 舟遊びを しよう。」 たぬき「よからう。」 うさぎと たぬきは、舟を こぎます。 うさぎは 歌ひます。 うさぎ「うさぎの 舟は、 木の お舟、 たぬきの 舟は、 どろの 舟。」 たぬきの 舟が、少し おくれます。 たぬき「おうい、うさぎ君、ぼくの 舟は、なんでか 重くて 進まないやうだ。」 うさぎ「そんな ことは ないよ。君の こぎかたが へたなの だ。」 たぬき「さうかね。」 また しばらく こぎます。たぬきは だんだん おくれます。 たぬき「やあ、たいへん、たいへん。ぼくの 舟に、水が はいって 來た。あ、舟が 沈む、沈む。うさぎ君、助けて くれ。」
いつのまにか、となりの へやに、勇さんの おかあさんと ねえさんが、來て 見て いらっしゃいました。 勇さんも 太郎さんも 氣が ついて、あわてて やめました。おかあさんは、 「ほんたうに じゃうず ですね。」 と いって、おほめに なりました。
二十三 自動車
正男さんの うちへ 遊びに 行かうと 思って、外ヘ 出ました。 と中まで 來て、ふと 見ると、正男さんの 家の 前に、自動車が 止って ゐました。そばに、人が 四五人 立って ゐました。 「なんだらう。」と 思って、私は 急いで 行って 見ました。正男さんが ゐましたので、 「どうしたの です。」 と 聞きますと、正男さんは、 「自動車の こしゃう。」 と いひました。 「どんな こしゃう。」 と 聞きますと、そばに ゐた どこかの をぢさんが、 「あの、左がはの 後の 車を ごらんなさい。」 と いひました。 見ると、その 車の タイヤが、ひしゃげて ゐました。 「破れたの でせうか。」 と 聞きますと、をぢさんは、 「タイヤの 中の チューブに あなが あいて、空氣が ぬけて しまったのです。」 と いひました。 うんてんしゅは、その 車を はづしました。さうして、自動車に つけて あった ほかの 車を 持って 來て、とりつけました。 しごとが すむと、うんてんしゅは をぢさんたちに、 「お待ちどほさま でした。どうぞ、お乘りください。」 と いひました。をぢさんたち 三人は、 「やあ、ごくらう でした。」 と いって、自動車に 乘りました。 うんてんしゅも 乘りました。 「ブルブル、ブルブル。」 と、自動車が うなりだしました。 をぢさんたちは、私たちに、 「さやうなら。」 と いひました。私も 正男さんも、 「さやうなら。」 と いひました。 自動車は 動き出しました。 「ブッブウ。」 自動車は 走って 行きます。 私たちは、自動車が 見えなく なるまで、見て ゐました。
二十四 長い 道
どこまで 行っても、 長い 道。 夕日が 赤い、 森の 上。
どこまで 行っても、 長い 道。 ごうんと お寺の かねが なる。
どこまで 行っても、 長い 道。 もう かへらうよ、 日が くれる。
二十五 日曜日の 朝
今日は 日曜日で、こうあほうこう日 です。朝 早く 起きて、にいさんと 國旗を 立てました。 私たちの 立てた 國旗が、風に ひらひらして、いつもより 勇ましく 見えました。 みんな 庭へ 出て、宮城の 方を 拜みました。また、お國の ために なくなられた 兵たいさんや、戰地で はたらいて いらっしゃる 兵たいさんの ために、もくたうを いたしました。 それから、おとうさんの お手つだひを して、庭の 草を 取りました。 おとうさんが、枯れかかった かきねの 朝顔を、きれいに 取って おしまひに なったので、そのへんが 見ちがへるやうに、明かるく なりました。 にいさんは、こはれて ゐた ごみ箱の ふたを なほしました。 おかあさんは、 「じゃうずに できた こと。」 と いって、お喜びに なりました。 「ごはん ですよ。」 と 呼ばれて、行って みると、お母さんは、赤ちゃんを おんぶしたまま、もう すっかり おぜんの したくを して いらっしゃいました。 「今朝は、一家 そう動ゐんで はたらいたね。」 と、おとうさんが、おはしを 取りながら おっしゃいました。 ごはんが すんでから、戰地の 兵たいさんに、ゐもん文を かきました。
二十六 うらしま太郎
一 四人の子どもが、一ぴきのかめをとりまいて遊んで ゐます。 子ども一「この かめを ころがして みよう。」 子ども二「おもしろい。みんなで ころがさうよ。」 みんな 「よいしょ、よいしょ。」 かけごゑを かけながら、みんなで かめを ころがします。 そこへ うらしま太郎が 來ます。 うらしま「これ、これ、どうしたの だ。」 子ども三「おもしろいから、かめを ころがして ゐるの です。」 うらしま「そんな ことを しては いけない。かはいさう だから、はなして おやり。」 子ども四「だって、ぼくたちが つかまへたの だもの。」 うらしま「でも、かめは 生きもの だ。ゆるして おやり。 さうだ。私に、この かめを 賣って くれないかね。」 みんな「賣って あげよう。」 うらしまは、お金を 子どもたちに やります。 子ども一「よかった、よかった。」 みんな「行かう、行かう。」 子どもたちは、「わあ、わあ。」 いひながら、行って しまひます。 うらしま「かめさん、しっかりなさい。」 かめを だき起して、せなかを さすって やります。かめは、 なみだを ふきながら、ていねいに おじぎを します。 うらしま「ちゃうど ここを 通りかかって よかった。早く うちへ かへりなさい。」 かめは、おじぎを しながら、どこかへ 行きます。
二 うらしまが つりを して ゐます。そこへ、かめが 出て 來ます。 かめ 「うらしまさん、うらしまさん。」 うらしま「おや、だれかと 思ったら、この間の かめさん だね。」 かめ 「はい、この間は、お助けくださいまして、ほんたうに ありがたう ございます。今日は、お禮に りゅうぐうへ おつれしようと 思って まゐりました。」 うらしま「りゅうぐうへ。」 かめ 「さやうで ございます。それは、それは、きれいな、よい ところで ございます。」 うらしま「それは おもしろい。行って みませう。」 かめ 「では、ごあんない いたします。」 かめは、うらしまの 手を 取って、そこらを ぐるぐる 歩きます。 かめ 「ごらんなさい。向かふに 光った やねが 見える でせう。」 うらしま「ああ、見える。赤や、黄で ぬった 門が 見えるね。」 かめ 「あれが、りゅうぐうの ご門で ございます。もう ぢきで ございます。」
三 かめが、うらしまを あんない しながら、出て 來ます。 かめ 「ここが りゅうぐうで ございます。どうぞ、そこへ おかけください。」 うらしまは、あたりの 美しさに おどろきながら、りっぱな いす に こしを かけます。いろいろな 魚が 出て 來ます。その 後から、 おとひめさまが あらはれます。 かめ 「このおかたが、うらしまさんで ございます。」 おとひめ「あなたが、うらしまさんで いらっしゃいますか。私は、おとひめで ございます。この間は、かめを お助けくださいまして ありがたう ございます。どうぞ、ゆっくり 遊んで いって くださいませ。」 魚たちは、ごちそうを はこんで 來ます。 おとひめ「さあ、ごゑんりょなく めしあがって ください。」 うらしま「どうも ごちそうさまで ございます。」 おとひめ「では、みんなに おもしろい をどりを をどって もらひませう。」 魚たちは、そろって をどります。 うらしま「おもしろい、おもしろい。」
四 かうして 三年 たちました。 ある日、うらしまは、父や 母の ことを 思ひ出して、急に 家へ かへりたく なりました。 たひ 「これは、まだ さしあげた ことの ない、おいしい ごちそうで ございます。」 うらしま「いや、もう 十分 いただきました。」 えび 「では、にぎやかな をどりを して、ごらんに いれませう。」 うらしま「をどりも たくさん です。」 おとひめ「それでは、何か かはった ことを して、おなぐさめ いたしませう。」 うらしま「いや、おとひめさま、何もかも、もう 十分で ございます。長い間、ほんたうに おせわに なりました。」 おとひめ「どうか なさいましたか。」 うらしま「あまり 長く なりますので、もう おいとま いたします。」 おとひめ「まあ、よろしいでは ございませんか。」 うらしま「でも、うちの ことも 氣に かかりますから、かへらして いただきます。」 おとひめ「さやうで ございますか。なんの おかまひも できません でした。では、おみやげに 玉手箱を さしあげませう。」 かめが、玉手箱を 持って 來ます。 うらしま「おみやげまで いただきまして、ありがたう ございます。」 おとひめ「この 玉手箱は、どんな ことが あっても、おあけに なっては なりません。いつまでも、そのままに して おいて いただきたう ございます。」 うらしま「よく わかりました。 では、おいとま いたします。 さやうなら。」 みんな 「さやうなら。」 かめ 「私が、また おともを いたしませう。」 おとひめ「ごきげんよう、さやうなら。」 うらしま「さやうなら。」 かめが、うらしまの 手を 取って 出て 行きます。
五 生まれた 村に かへったら、 だれも 知らない 人ばかり、 とはうに くれて うらしまは、 あけて 見ました、玉手箱。
白い けむりが 立ちのぼり、 げんきで 若い うらしまは、 みるみる しらがの おぢいさん、 昔 むかしの 話 です。
鳥 野 美 茶 原 向 力 開 落 同 重 何 玉 南 北 國 引 昔 神 廣 地 動 橋 明 白 女 並 歌 鯉 矢 尾 待 用 千 百 取 切 右 左 流 葉 作 岸 止 近 蛙 遊 聞 答 吸 軍 雄 知 城 砲 形 魚 旗 痛 苦 洗 使 毎 夜 忘 若 首 逃 家 遠 谷 根 寸 都 針 鼻 高 強 梅 實 黄 色 田 苗 夏 金 買 兩 涼 浮 沈 星 祭 町 歩 賣 宮 拜 足 進 枚 表 心 虫 分 帆 船 沖 波 布 砂 貝 深 淺 顔 耳 紙 助 自 後 破 乘 道 寺 曜 起 戰 枯 箱 喜 文 禮 父 母
(以上、『よみかた 三』もんぶしゃう 終)
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