資料439 中根東里の「壁書」
  
 

 

       中根東里の「壁書」


一 父母をいとをしみ、兄弟にむつまじきは、身を修むる本なり。本かたければ
 末しげし。
一 老を敬ひ、幼をいつくしみ、有德を貴び、無能をあはれむ。
一 忠臣は國あることを知りて、家あることを知らず。孝子は親あることを知り
 て、己れあることを知らず。
一 祖先の祭を愼み、子孫の敎を忽にせず。
一 辭はゆるくして、誠ならむことを願ひ、行は敏くして、厚からんことを欲す。
一 善を見ては法とし、不善を見てはいましめとす。
一 怒に難を思へば、悔にいたらず。欲に義を思へば、恥をとらず。
一 儉より奢に移ることは易く、奢より儉に入ることはかたし。
一 樵父は山にとり、漁父は海に浮ぶ。人各々其業を樂むべし。
一 人の過をいはず。我功にほこらず。
一 病は口より入るもの多し。禍は口より出づるもの少からず。
一 施して報を願はず。受けて恩を忘れず。
一 他山の石は玉をみがくべし。憂患のことは心をみがくべし。
一 水を飲んで樂むものあり。錦を衣て憂ふるものあり。
一 出る月を待つべし。散る花を追ふ勿れ。
一 忠言は耳にさからひ、良藥は口に苦し。

 

中根東里
名は若思、字は敬父、伊豆の人、幼にして僧となる。物徂徠の門に学ぶうち、悟るところあり、
遂に還俗す。後、室鳩巣に師事せり。後に王学に転じてより、独り之を講究す。生平赤貧、或
は江戸に居り、或は鎌倉に往き、上毛に寓す。明和二年二月七日相模の浦賀に歿す。




 
引用者注: (1) ここには、東里の字(あざな)が「敬父」となっていますが、「敬夫」としてあるものもあります。
           「敬父」が正しいようにも思えますが、未確認です。
            なお、『ふるさと横須賀』(石井昭著)というサイトに、「中根東里『清貧で学問にはげむ』」という
           ページがあり、そこに、顕正寺の墓石には、正面に「東里居士墓」、裏面に「居士姓中根、諱若思、
           字敬父、亦孫平、伊豆人也」とある、とあります。墓石に「敬父」とあるのであれば、「敬父」を採る
           べきではないでしょうか。このことについて教えていただければ幸いです。(2012年12月27日)
          (2) 「生平」は、「平生」と同じ意味です。
          (3)「出る月を待つべし」の「出る」は、「いづる」と読むのでしょうか。「出づる」となっている本文も
           あります。

 


 
   (注) 1. 上記の「中根東里の「壁書」」は『国立国会図書館デジタルコレクション』所収の杉原三省(夷
         山)著『陽明学座右銘』(大学館、明治42年6月3日発行)によりました。
               
『国立国会図書館デジタルコレクション』 → 『陽明学座右銘』 (28~29/92)
        2. 佐野市のホームページに、佐野市指定文化財「中根東里学則版木」のページがあります。
            
佐野市ホームページ → くらしの情報 → 文化・伝統 → 佐野市指定文化財「中根東里学則版木」
        3. 磯田道史著『無私の日本人』(文藝春秋、2012年10月25日初版第1刷発行)に、穀田屋十
         三郎、大田垣蓮月とともに、中根東里が取り上げられています。
          なお、『文藝春秋』2010年(平成22年)2月号から、磯田道史氏による「新代表的日本人」の
         連載が始まり、その第1回として中根東里が取り上げられ、東里については4月号まで3回にわ
         たって連載されています。
        4. 『黒船写真館』というブログに「浦賀に眠る陽明学者 中根東里」というページがあって参考に
         なります。
        5. 『豆の育種のマメな話』(北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落ち穂拾い)というブログに、「下
         
生まれの儒者、清貧に生きた天才詩文家「中根東里」」という記事があり、中根東里の経歴
         が簡潔にまとめてあって参考になります。   
           *「写真術の開祖
「下岡蓮杖」」の次に、「「中根東里」と伊豆気質」があり、その次に「下田生まれの
              儒者、清貧に生きた天才詩文家「中根東里」」があります。
 
(2016年10月7日) 
 
        6. 資料437に「中根東里「学則」」があります。
        7. 資料438に「中根東里の経歴(『下田の栞』による)」があります。
        8. 資料441に「〔中根東里〕竹皮履先生と壁書(『通俗教育 逸話文庫』巻の三より)」があります。
        9. 資料442に「中根東里(『先哲叢談 後篇』より)」があります。
        10. 資料443に「中根東里(『近古伊豆人物志』より)」があります。
        11. 資料445に「中根東里(『日本陽明学派之哲学』より)」があります。 
        12. 資料446に「中根東里(『日本陽明学派之哲学』より・傍点部分を表記)」があります。  
      

 




                                   
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