資料10 詩「晴れ間」(さみだれの晴れ間うれしく……) 



       晴れ間

さみだれの晴れ間うれしく、
野に立てば
野はかがやきて、
白雲を
通す日影に、
はや夏の暑さをおぼゆ。

行く水は少しにごれど、
せせらぎの 
音もまさりて、
よろこびを
歌ふがごとく、
行くわれを迎ふるごとし。

田園のつづく限りは、
植ゑわたす 
早苗(さなへ)のみどり。
山遠く
心はるばる、
天地の大いなるかな。

ふと見れば、道のほとりに、 
つつましき
姿を見せて、
濃きるりの
色あざやかに、
咲くものは露草の花。

    (文部省 『初等科国語 七』所収)


      *  *  *  *  * 

  (参考)『小学国語読本 尋常科用 巻九』所収の詩を次に挙げておきます。


  第十五 晴間

さみだれの晴間うれしく、
野に立てば
野は輝きて、
白雲を
通す日影に、
はや夏の暑さをおぼゆ。

行く水は少し濁れど、
せゝらぎの 
音もまさりて、
よろこびを
歌ふが如く、
行く我を迎ふる如し。

田園のつゞく限りは、
植ゑわたす 
早苗(さなへ)のみどり。
山遠く
心はるばる。
天地(あめつち)の大いなるかな。

ふと見れば、道のほとりに、 
つゝましき
姿を見せて、
濃き瑠璃(るり)
色あざやかに、
咲くものは露草の花。


※ 「はるばる」の「ばる」は、教科書では平仮名の「く」を縦に伸ばした形のものに濁点をつけた繰り返し符号が用いられていますが、ここでは仮名に直して表記してあります。
 また、「心はるばる。」のところに句点が打たれていますが、これは『初等科国語 七』のように、読点(、)であるべきところではないでしょうか。
    


  (注) 1.  上の詩は、『初等科国語 七』文部省(昭和17年2月21日発行・昭和18年1月31日翻刻発行) [『複刻国定教科書(国民学校期)』ほるぷ出版刊(昭和57年2月1日)]によりました。       
下の詩は、『小学国語読本 尋常科用 巻九』(昭和12年12月15日修正発行 ・昭和13年1月30日翻刻発行) [『国定国語教科書 第4期』秋元書房刊(1970年4月復刻)]によりました。
   
    2.  詩中のルビは、(  )に入れて示しました。『初等科国語 七』には、第3節の「天地」にルビはついていませんが、音数の関係から「あめつち」と読みます。(『小学国語読本』には、「あめつち」と振り仮名がついています。)    
    3.  この詩の作者の名前は、教科書には出ていません。
『レファレンス協同データベース』に、「「初等科国語七」に掲載されている「晴れ間」という題の詩について、作者が知りたい」という質問と回答が出ていて参考になりますので、ご覧ください。
   
    4.  「絵で見る国定教科書の変遷」という北海道教育大学附属図書館のホームページによれば、『初等科国語 七』の教科書は、国民学校6年生(前期用)の教科書です。 
『広島大学図書館  教科書コレクション画像データベース』で、『初等科国語 七』(著作兼発行者:文部省、東京書籍株式会社・昭和17年(1942)12月21日発行、昭和18年(1943)2月28日翻刻発行)が、画像で見られます。 
   
    5.  この詩は、上に掲げたように、既に『小学国語読本 尋常科用 巻九』(文部省編)にも、「第十五 晴間」として出ています。
『広島大学図書館  教科書コレクション画像データベース』で、『小学国語読本 尋常科用 巻九』(著作兼発行者:文部省、東京書籍株式会社・昭和15年(1940)10月2日修正発行、昭和15年(1940)11月5日翻刻発行)が、画像で見られます。  
この教科書は、昭和8年(1933)~昭和15年(1940)まで使用された国定教科書だと、北海道教育大学附属図書館の「絵で見る国定教科書の変遷」にありました。
   
    6. 『終戦前後2年間の新聞切り抜き帳』というホームページの中に収めてあった、「大日本帝国時代の教育」(戦時中の国語教科書)というページで、国民学校5年生・6年生用の国語教材の大部分が見られ、いろいろ参考になる記事が見られたのですが、削除されてしまったようで、残念ながら今は見られないようです。(2006.12.23)    
    7. 資料199に『初等科国語 七』資料210に『初等科国語 八』を用意しました。5年生用の『初等科国語 五』『初等科国語 六』もあります。どうぞご利用下さい。(2007.9.3)    
    8. 『初等科音楽 四』文部省(昭和17年12月31日発行・昭和18年1月31日翻刻発行)に載っている「晴れ間」は、次のような表記になっています。
 ア. 第1節の「白雲を通す日影に」の下に、読点がない。これは、他の節の句読点の付け方を見ると、付け忘れであろうと思われます。(あるいは、印刷上の関係で落ちたものか?)  
 イ. 各節4行で、それぞれ3行目と4行目が1字下げになっている。

  さみだれの晴れ間うれしく、
  野に立てば野はかがやきて、
   白雲を通す日影に
   はや夏の暑さをおぼゆ。

  行く水は少しにごれど、
  せせらぎの音もまさりて、
   よろこびを歌ふがごとく、
   行くわれを迎ふるごとし。

  田園のつづく限りは、
  植ゑわたす早苗(さなへ)のみどり。
   山遠く心はるばる、
   天地の大いなるかな。

  ふと見れば、道のほとりに、
  つつましき姿を見せて、
   濃きるりの色あざやかに、
   咲くものは露草の花。
   
   
    9.  なお、国民学校の『ヨミカタ 二』の教科書に、「西ハ 夕ヤケ 赤イクモ、 /  東ハ マルイ オ月サマ。 / カウリャン カッテ ヒロイナア、 / ドッチヲ見テモ ヒロイナア。」という歌が、満州からの手紙の中の引用という形で載っています。(資料106『ヨミカタ 二』の「西ハ 夕ヤケ」参照)
 「カウリャン カッテ ヒロイナア」(こうりゃん 刈って 広いなあ)という句を覚えておられる方も、多いことでしょう。(なお、検索しやすいように 「こうりゃん かって ひろいなあ」「こうりゃん 刈って ひろいなあ」「コウリャン かって ひろいなあ」「コウリャン 刈って ひろいなあ」「コウリャン 刈って 広いなあ」という形でもあげておきます。)
   
    10. 資料103に、「国民学校期「国語教科書」総目録(総目次)」があります。    
    11.  「ヨミカタ 一」の本文(全文)が資料105に、「ヨミカタ 二」の本文(全文)が資料106にあります。    







            トップページへ