資料8 森鴎外の詩「沙羅の木」



           沙羅(さら)の木(き)

                      森 鷗
    褐色(かちいろ)の根府川石(ねぶかはいし)
    白き花はたと落ちたり、
    ありとしも靑葉がくれに
    見えざりしさらの木の花。


 


  (注) 1. 岩波書店版『鷗外全集』著作篇第一巻(昭和27年4月10日第1刷発行)によりました。全集は、勿論、縦書きです。    
    2. 詩歌集『沙羅の木』(阿蘭陀書房、大正4年9月5日発行)は、「譯詩」「沙羅の木」「我百首」の3部からなり、「沙羅の木」の詩は「沙羅の木」の最初に 置かれた詩です。初出は、明治39年9月1日発行の 『文藝界』五ノ九。    
    3. 詩歌集『沙羅の木』は、『国立国会図書館デジタルコレクション』に収めてあるものを見ることができます。
     → 『沙羅の木』 ( 88/133)
   
    4. ( )内の読み仮名は、全集ではすべてルビになっています。    
    5. ここに詠まれている「沙羅の木」は、夏椿のことで、平家物語に出てくる「沙羅双樹」の沙羅とは別の木です。    
    6. 『文京区立森鷗外記念館』について 東京都文京区千駄木3丁目にある観潮楼跡の元の「鴎外記念室」(「文京区立本郷図書館鴎外記念室」)がリニューアルして、新たに『文京区立森鷗外記念館』として、平成24年11月1日に開館しました。ここの庭に、沙羅の木(夏椿)があり、外壁に埋め込まれた詩壁(永井荷風書)があります。
     → 『文京区立森鷗外記念館』
 (参考)→ 「本郷図書館」    (2013年6月10日付記)
   
    7. この「沙羅の木」の詩壁の建設について、森於菟著『父親としての鷗外』(ちくま文庫、1993年9月22日第1刷発行)に次のようにあります。

 昭和二十九年七月九日は父の三十三回忌に当るので、私は、弟妹とはかり父の供養のためにするという名義で、「沙羅の木」の詩壁を建てることにした。沙羅の木は観潮楼の西南側にあった植込みの中で隣家酒井子爵邸の近くにあり、初夏に白い花が咲くが、気を附けていないと見すごすほど淋しい花であった。/(略)/これを詩碑にする発案者は野田さんで、この時より二年前、私が東武線市川駅の近くに隠棲して居られる永井荷風さんを訪ねて執筆をお願いしたところ、世俗をきらうというので名高い荷風氏は一言の下に快諾され、半月ばかり後また伺ったら立派にできていたのを渡された。/これを瑞典産ときく美しい石に彫り、明治を象徴する赤煉瓦の壁にはめこむという構想で谷口吉郎さんが設計された。(略)出来上った見事な詩壁には、武石弘三郎作の大理石「森鷗外」胸像を配し、折柄白いほのかな花をつけた沙羅の木を植え、その前には「根府川石」も忘れられなかった。/ 除幕式には安井都知事を初め各界の名士が参列した。観潮楼とは昔から縁の深い小金井の叔母喜美子は涙ぐみ、昔のままに温和の相貌ながら翁さびて見える佐佐木信綱さんも心から喜んで碑前に和歌をたむけられた。(同書、405~407頁)
   
    8. なお、観潮楼跡の「沙羅の木」の詩壁の詩には、句読点が省かれています。    
    9. 振り仮名を除いた詩の本文を書いておきます。    
     
   沙羅の木
           森 鷗外

  褐色の根府川石に

  白き花はたと落ちたり、
 
  ありとしも靑葉がくれに
 
  見えざりしさらの木の花。

   
    10. 津和野町の「森鷗外記念館」の施設案内のページがあります。    
    11. 国立国会図書館の『近代日本人の肖像』で、森鷗外の肖像写真を見ることができます。    
    12. 資料346に「森鴎外の詩「扣鈕」」があります。    
    13. 資料349に「森鴎外の短歌「一刹那」」があります。    
    14. 資料350に「森鴎外の短歌「舞扇」」があります。    
    15. 資料351に「森鴎外の短歌「潮の音」」があります。    
    16. 資料347に「森鴎外「我百首」」があります。    




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