室長室014 詩「白く艶かしい牧場」



 

   白く艶かしい牧場

 

 

 

 

 

ゆるやかな丘陵の果てには
灌木に覆われてもの悲しい沼地が。
(なまめ)かしい牧場は涙に洗われた蒼空の下にある。

玩具のような赤毛の小馬、二頭
無心に跳ね廻る。彈む大地。飛ぶ雲。
<小馬は牧場の端までくるとひよいと向きを變えて、また剽輕に駈けてゆく。>

白く息づく牧場。しかし
小馬はそれに氣づかない。
回轉する大地を牧場は知ろうとしない。

ああ、二頭の小馬の可憐な動作をごらんよ。
透明な時間はこんなにも輕
(かろ)やかだ。

……だが、蒼空は不意に天から剥げ落ちて、
音もなく小馬を押し潰してしまうのだ。
すると、
牧場はたちまち白く灼熱して(葬いもせずに)
潰された死骸を骨まで燒き盡くしてしまおうとする。

 

          



     昭和33年2月号の『小説新潮』という雑誌の、「小説新潮サロン」という
     欄に、詩の「天」位に選ばれて載った詩です。
     選者 ・高橋新吉氏の選後評は、
      「白く艶かしい牧場」は、終りの方に誇張された或種の不安があるが、
      それが無制約に手綱を放したものではない。
     というものでした。
     若いときの作で、気恥ずかしい思いがするのですが、ここに記録して置く
     ことにします。  
     なお、詩中の漢字が旧漢字になっているのは、『小説新潮』に掲載された
     形のままにしたものです。          (2005.02.25)
     

 

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