室長室012 視察を終えて思うこと


    ドイツがまだ東西に分かれていた時代に、西ドイツとイタリアの学校を数校ずつ視察する機会がありました。西ドイツは、ヘッセン州東部のフルダ市という古い町、イタリアは、イタリア中部の、ローマとナポリの中間にあるカッシーノ市。カッシーノは、ベネディクトゥスが最初のベネディクト会の修道院であるモンテ・カッシーノ修道院を創立した由緒ある町です。カッシーノは第二次世界大戦末期にはドイツ軍の拠点となり、連合軍との戦場となって壊滅的な打撃を受けました。  
       

        
視察を終えて思うこと

 

 世界は狭くなったとはいえ、ヨーロッパはまだまだ遠いというのが、海外研修をしてきての実感である。そして、わずか数日間その地に滞在して見てきたことが、どれほどその国その町の真の姿をとらえているか心もとないという気持ちも、今あらためて感じることの一つである。しかし、実際にその地に身を置いてみて初めて理解し得るものの多いことも、また確かである。
 今回訪問したイタリア・西ドイツの学校の、1クラスの人数が25人前後と少なかったことや、小中学校では午前中(高学年は昼休みを入れずに午後1時過ぎまで)で放課にしていることなど、書物で調べてみれば分かるであろうことも、実際に見聞してこそ強く心に刻まれるのだ、と言い得るであろう。
 必ずしも経済的に豊かでないと思われる地方都市の学校でも、1クラスの人数は決して増やさずに授業をしているのを見て、羨ましく感じた。プリントを配布するのにも、生徒の一人がひとりひとりに手渡して配っていたのである。
 小中学校で授業を午前中で放課にしているのは、長年の伝統・習慣によるものであろうが、帰宅してからの子どもたちの生活がどんなふうであるのかなど、聞いてみたいことはあとになっていろいろ出てくる。学校を離れてからの行動はすべて家庭の責任に属するという話であったから、家庭では早い放課をどうとらえているであろうか。
 どの教室でも、子どもたちは明るい目を輝かせて授業に参加しているように見えた。教師の発問に意欲的に挙手する子どもたち。初めて日本人に会ったであろう子どもたちが、わずかな時間の接触だけで親しみの気持ちを強く表すのを見て、彼らの心の中にその思い出がどういう形で残るものなのか、興味ぶかく思いやられた。自分のノートに漢字のサインをしてもらったイタリアの子どもたちが、得意気に両親に話して聞かせている様子が目に浮かぶ。日本といえばまずオートバイを思い浮かべるという彼らの、これからの日本の印象はどう変わるであろうか。
 そして、教師たちのもの静かな話しぶり。どの教室にも掲げられていた十字架のキリスト像。
 初めて外国の教育の実際に触れる機会を得て、いろいろ考えさせられることが多かった。その中でも、特に、どの学校の教師にも、みなそれぞれに子どもたちの教育に真剣に取り組んでいる姿勢と、自分たちは教育の専門家なのだという自信・自覚が感じとれたことは、当然のことだとはいえ、深い感銘を受けた。
               (1984.10.25)

 

 

 

 

 

 

 

 
  (注) 1.  フルダFulda)=ドイツ連邦共和国の都市。ヘッセン州に属する。フルダ川沿いに位置し、チューリンゲン州、バイエルン州の州境に近い。ブラウン管の発明で知られる、カール・フェルディナント・ブラウンの出生地。人口は約6万3千人(2003年末)。
 744年、聖ボニファティウスによってベネディクト会の修道院が建てられ、これが街の起源となった。
 第二次世界大戦後の冷戦下では、チューリンゲン州との州境は即ち西ドイツと東ドイツの国境であり、北大西洋条約機構の軍事戦略上においても重要な都市の一つであった。この地域の渓谷は、フルダ・ギャップと呼ばれ、フランクフルトを目指すソ連軍の進撃路になると予想されていた。そのため、1994年までアメリカ陸軍第11機甲騎兵連隊が駐留していた。(「ウィキペディア」による。)
   
    2.  カッシーノ(Cassino)=人口32,592人(2004年12月31日現在)のイタリア共和国ラツィオ州フロジノーネ県のコムーネ(行政における自治体の最小単位)の一つ。カッシーノは、ヌルシアのベネディクトゥスが、モンテ・カッシーノ(Monte Cassino)という標高519mの岩山に初めてベネディクト会の修道院を築いた(529年ごろ)ことで有名である。
 史上、同修道院は古代から中世を通じてヨーロッパの学芸の中心という重責を担っていたが、戦乱の中でたびたび破壊された。第二次世界大戦末期にはドイツ軍の拠点となり、連合軍と ドイツ軍との戦場となり、壊滅的
な打撃を受けた。(「ウィキペディア」による。) 
   
           
   

 

 






    次のページへ  前のページへ
    
「室長室の目次」へ  
『小さな資料室』のトップページ(目次)へ