資料97 陶淵明「帰去来辞 并序」 



        歸去來辭 并序   陶 潛(陶淵明)


余家貧耕植不足以自給幼稚盈室缾無儲粟生生所資未見其術親故多勸余爲長吏脱然有懷求之靡途會有四方之事諸侯以惠愛爲德家叔以余貧苦遂見用於小邑于時風波未靜心憚遠役彭澤去家百里公田之利足以爲酒故便求之及少日眷然有歸歟之情何則質性自然非矯勵所得飢凍雖切違己交病嘗從人事皆口腹自役於是悵然慷慨深愧平生之志猶望一稔當斂裳宵逝尋程氏妹喪于武昌情在駿奔自免去職仲秋至冬在官八十餘日因事順心命篇曰歸去來兮乙巳歳十一月也 


歸去來兮田園將蕪胡不歸既自以心爲形役奚惆悵而獨悲悟已往之不諫知來者之可追實迷途其未遠覺今是而昨非舟遙遙以輕颺風飄飄而吹衣問征夫以前路恨晨光之熹微乃瞻衡宇載欣載犇僮僕懽迎稚子候門三逕就荒松菊猶存擕幼入室有酒盈罇引壺觴以自酌眄庭柯以怡顔倚南窗以寄傲審容膝之易安園日渉以成趣門雖設而常關策扶老以流憩時矯首而遐觀雲無心而出岫鳥倦飛而知還景翳翳以將入撫孤松而盤桓歸去來兮請息交以絶游世與我而相遺復駕言兮焉求悦親戚之情話樂琴書以消憂農人告余以春及將有事於西疇或命巾車或棹孤舟既窈窕以尋壑亦崎嶇而經丘木欣欣以向榮泉涓涓而始流善萬物之得時感吾生之行休已矣乎寓形宇内復幾時曷不委心任去留胡爲乎遑遑欲何之富貴非吾願帝郷不可期懷良辰以孤往或植杖而耘耔登東皐以舒嘯臨清流而賦詩聊乘化以歸盡樂夫天命復奚疑


  (注) 1.  「歸去來辭」の本文は、新釈漢文大系18『文章軌範(正篇)下』(前野直彬著、明治書院 昭和37年9月15日初版発行、昭和45年5月10日12版発行)によりました。ただし、本文についている訓点・句読点、段落分け等は省略しました。    
    2. 新釈漢文大系本には「歸去來辭」の序が載っていないので、ワイド版岩波文庫『陶淵明全集(下)』(1991年6月26日第1刷発行)によって、「歸去來辭」の序を補いました。    
    3. 新釈漢文大系18『文章軌範(正篇)下』所載の本文と、ワイド版岩波文庫57『陶淵明全集(下)』所載の本文との異同を示しておきます。
  (新釈漢文大系本) …… (ワイド版岩波文庫本)
     歸去來辭   ……   歸去來兮辭 [題名]
     載欣載犇   ……   載欣載奔
     僮僕懽迎   …… 僮僕歡迎
    世與我而相遺  ……   世與我而相違
   
    4.  『次世代デジタルライブラリー』で、趙子昂筆の「真書帰去来辞」(東京・小林久兵衛、明治16年7月刊)を画像で見ることができます。    
    5. 『碇豊長の詩詞・詩詞世界』で、「歸去來兮辭」の訓読と詳しい解説が見られます。    
    6. 資料 35に 陶淵明「五柳先生伝」 があります。
資料 93に 陶淵明「桃花源記  并詩」 があります。
資料183に 陶淵明「飲酒 二十首并序」 があります。
   







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