室長室018 詩「杖突峠」

           

 


     
杖突峠
 

 

 

ある夏の日の暮れがた
友と二人車で高遠の町を出て
杖突峠に向かって
街道を北上した

峠に立ったとき
私は思わず息を呑んだ
足元から先の目の前の大地が
大きく抉り取られているではないか!

眼下に広がる茅野の街
そして左かたには
水面(みなも)を鈍く光らせて
夕靄にかすむ諏訪湖が見える
 
かくも豪快に大地を抉り取ったものは
いったい何者であるのか

私はある種の畏れを胸に
暮れがたの峠に
暫し立ちつくしていた……  
 

 


 
           
      
平成7年(1995年)8月28日、南アルプス塩見岳に登った帰り、高遠町を
     見学して、29日夕方、杖突峠を通って帰途につきました。
     杖突峠に立って、前方を見渡した時、峠の足元から大地が大きく抉られた
     ようになっている様子を見て、息が詰まるような感じを受けました。

     ここは、いわゆるフォッサマグナといわれる、西南日本と東北日本を分ける
     巨大な地溝帯にあたる場所で、その西端を糸魚川静岡構造線が走ってい
     ます。
     眼下の茅野市の市役所の標高が801m、杖突峠の標高が1247mですか
     ら、約450mの高度差があるわけです。また、諏訪湖の水面の標高は759
     mだそうですから、その標高差は488mあることになります。

     杖突峠の足元から一気に (というのは言い過ぎでしょうか、正確には、峠の
     少し先から、と言うべきでしょうか) 450m、乃至500m近くも大地が抉られ
     ているのですから、まことに稀有な眺望というべきでしょう。
     かつての旅を思い起こして、その時の感動を綴ってみました。
                                     (2010年8月13日)


     杖突峠(つえつきとうげ)=長野県茅野市と伊那市高遠町の境にある峠。
     標高1247m。杖突街道(国道152号線の一部)が越えている。茅野側
     (諏訪盆地側)はフォッサ・マグナ断層崖の急斜面になっており、諏訪湖、
     八ヶ岳の展望がよい。伊那市側(高遠町側)は比較的ゆるやかな街道が
     走っている。
     * フリー百科事典『ウィキペディア』の「杖突峠」の解説、その他を参照
     しました。
        

 
       




                             
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