資料32 吉田松陰の「父・叔父・兄への手紙」                    

 

 

       吉田松陰の「父・叔父・兄への手紙」       
       
(安政6年10月20日 松陰在江戸獄、父・叔父・兄在萩)

 

 

 

 

 

 

 

平生の学問浅薄にして至誠天地を感格する事出来不申、非常の変に立到り申候。嘸々(さぞさぞ)、御愁傷も可被遊拝察仕候。
  
親思ふこゝろにまさる親ごゝろけふの音づれ何ときくらん
乍去去年十月六日
差上置候書得(とく)と御覧被遊候はゞ、左まで御愁傷にも及不申と奉存候。尚又当五月出立の節心事一々申上置候事に付、今更何も思残候事無御座候。此度漢文にて相認候語諸友書も御転覧可被遊候。幕府正議は丸に御取用無之、夷狄は縦横自在に御府内を致跋扈候へ共、神国未だ地に墜(おち)不申、上に聖天子あり、下に忠魂義魂充々致候へば天下の事も余り御力御落無之候様奉願候。随分御気分御大切に被遊、御長寿を御保可被成候。以上。十月廿日認置。
          家大人 膝下
   玉丈人 膝下                        
      寅二郎百拝
   家大人 座下

両北堂様随分御気体御厭
(おいとひ)専一に奉存候。被誅候共、首までも葬呉候人あれば、未だ天下の人には棄られ不申と御一咲奉願候。児玉・小田村・久坂の三妹へ五月に申置候事忘れぬ様御申聞奉頼候。 呉々も人を哀(かなしま)んよりは自ら勤むること肝要に御座候。○私首は江戸に葬り、家祭には私平生用候硯と、去年十月六日呈上仕候書とを神主と被成候様奉頼候。硯は己酉の七月か、赤馬関(あかまがせき)廻浦の節買得せしなり、十年余著述を助けたる功臣なり。
 松陰二十一回猛士とのみ御記し奉頼候。

 

 

 

 

 

 

 

   十月六日 …… … 「十一月六日」 の誤り。

 

 

 

   家大人 座下 …… この 「家大人」 は、「家大兄」 の書き誤り。

 

 

 


 

 

 

 

 
  (注) 1.  手紙の本文は、岩波書店刊 『吉田松陰』(日本思想大系54 ・1978年11月22日第1刷発行) によりました。
 ただし、引用にあたって、本文中に施してある返り点は省略しました。
 
    2.  吉田松陰は、安政6年(1859)10月27日朝、死罪の判決を言い渡され、即日刑が執行されました。 松陰は、文政13年(1830)8月4日の生まれですから、29歳でした(数え年では30歳)    
    3.  「両北堂様とあるのは、実母・杉滝と養母・吉田久満を指しています。  
    4.  手紙の中の「親思ふ……」の和歌は、『留魂録』の冒頭に置かれた「身ハたとひ武蔵の野辺に朽ぬとも留置まし大和魂」(身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも留め置かまし大和魂)の辞世とともに、よく知られています。   
    5.  吉田松陰については、松風会のホームページ「吉田松陰の顕彰 松陰教学に学ぶ」が参考になりますので、ご覧下さい。        
    6.  京都大学附属図書館 のホームページにある『京都大学貴重資料デジタルアーカイブ』で、松陰の書簡その他の画像が見られます。(ただし、残念ながらここに掲げた手紙の画像はありませ ん。) 例えば、「[吉田]松陰先生肖像」・「留魂録」・「松下村塾記」・「吉田松陰木造」「松陰(吉田)ヨリ思父(品川)ニ與フル書3月13日」などが見られます。  
7.  『吉田松陰遺墨帖』が、大和書房から出ています。(山口県教育会編纂・1978年2月刊)      
8.  『留魂録』は、資料36 にあります。
    9.  手紙の最後に出てくる「二十一回猛士」については、資料36『留魂録』の注をご参照ください。      
    10.  国立国会図書館のホームページの中に「近代日本人の肖像」というページがあり、そこで吉田松陰の肖像写真を見ることができます。  
11.  『かたつむり行進曲』というサイトに、「吉田松陰」があって、大変参考になります。松陰と『宝島』の作者・スチーブンソンとのつながりなどにも触れてあります。
 
残念ながら現在は見られないようです。(2017年10月30日)    
    12.  松陰とスチーブンソンとのつながりについて書いた本には、よしだみどり著『烈々たる日本人 日本より先に書かれた謎の吉田松陰伝 イギリスの文豪スティーヴンスンがなぜ(祥伝社ノン・ブック、2000年10月10日発行)があります。  
    13.  スチーブンソンの『YOSHIDA=TORAJIRO』が、Google ブックスに出ています。
 → 
Google ブックス『YOSHIDA=TORAJIRO』
 
    14.  資料71に吉田松陰『東北遊日記』(抄)があります。            
    15.  『国立国会図書館デジタルコレクション』に、松下村塾蔵板『留魂録』(松下村塾、明治2年刊)が入っています。この巻末に、ここに掲げた父・叔父・兄に宛てた手紙が掲載されています。(2010年8月12日付記)      
    16.  『吉田松陰.com』というサイトがあって、たいへん参考になります。(2012年10月8日付記)    

                          
           
     
    
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