資料635  「先春梅」(瀧興治著『水戸名勝誌』による)




先春梅 上市黒羽根町中崎醫師邸内に在り、樹幹低く垂れて地上に横(よこた)はり、長さ二丈餘に及ぶ、形頗る奇にして老幹全く朽ち、樹皮によりて纔(わづ)かに枯死せざるのみ、新條(しんでう)嫩枝(そうし)天に伸びて清楚人に逼(せ)まる、傍らに寒水石の碑あり、高さ六尺餘、即ち『先春梅碑』なり、曰く
  兒玉匡忠園中。有古梅一株。樹圍丈餘。高三丈。枝葉縱横。根幹輪囷。氷姿雪骨。老而逾奇。華紅白斑色。及華時。清香馥郁。遠襲人。往歳先君文公在藩也。賞遊唫咏。時爲寛政三年巳亥正月十有一日矣。匡忠之宅。其父匡次所賜。而岡崎朝堅舊宅也。相傳此樹佐竹氏舊物。即不知換主幾許。歳月荏苒。物在人亡。文公之賞遊。在朝堅父朝能時。至今既三十有七秊。匡忠慨然恐其久而事湮滅。請予記其事。將以刻石傳之不朽。予大嘉其志。且也文公休憩遺愛所存。不可无言。遂應其請。名之曰先春梅。且記其梗概以與之。係以銘曰。色秀衆樹。香掩衆芳。高標逈絶。老幹屈強。一經風詠。漸換星霜。遺愛長存。千秋彌章。  
  文政十載歳次丁亥正月丁丑朔九日立源紀敎叔寛父撰幷書及篆額
其源紀敎叔寛父とは、烈公未だ世に出ざる幼時の名なり、是れ元佐竹氏の臣岡本梅香齋の愛する所、古梅今尚ほ存するも、雅客往々之を逸す、頗る遺憾とすべき也。



  (注) 1. 本文は、『国立国会図書館デジタルコレクション』所収の『水戸名勝誌』(著作兼発行者・瀧興治、台水書院・明治36年3月1日発行、明治39年3月5日再版、明治44年3月5日三版)によりました。
  『国立国会図書館デジタルコレクション』『水戸名勝誌』
上記の「先春梅」は、30~31/110 に出ています。(本文の29~30頁)
      
   
           
    2. 原文は、碑文の部分以外は総ルビになっていますが、ここでは必要と思う部分だけに読み仮名をつけ、それ以外はルビを省略しました。    
           
    3. 碑文の文字について。
∇ 氷姿雪骨……碑の拓本は「氷姿玉骨」。
∇ 華紅白……碑の拓本は「華白紅」。
∇ 即不知換主幾許……「即」とあるが、碑の拓本は「則」か。
∇ 香掩衆芳……碑の拓本は「香掩群芳」。
∇ 文政十載・・・……この行は拓本では碑の最初の行に置かれています。
∇ 源紀敎叔寛父……著者はこれを「烈公未だ世に出ざる幼時の名」としていますが、この「父」も「幼時の名」に含まれるのでしょうか。
   
           
    4.  資料633に「先春梅記」のこと があります。    







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