資料591 韓愈「伯夷頌」



        伯  夷  頌            韓 愈


士之特立獨行適於義而已不顧人之是非皆豪傑之士信道篤而自知明者也一家非之力行而不惑者寡矣至於一國一州非之力行而不惑者蓋天下一人而已矣若至於擧世非之力行而不惑者則千百年乃一人而已耳當殷之亡周之興微子賢也抱祭器而去之武王周公聖也從天下之賢士與天下之諸侯而往攻之未嘗聞有非之者也彼伯夷叔齊者乃獨以爲不可殷既滅矣天下宗周彼二子乃獨恥食其粟餓死而不顧由是而言夫豈有求而爲哉信道篤而自知明也今世之所謂士者一凡人譽之則自以爲有餘一凡人沮之則自以爲不足彼獨非聖人而自是如此夫聖人乃萬世之標準也予故曰若伯夷者特立獨行窮天地亙萬世而不顧者也雖然微二子亂臣賊子接迹於後世矣



(注) 1. 上記の韓愈「伯夷頌」の本文は、新釈漢文大系70「唐宋八大家文読本 一」(星川清孝著。明治書院、昭和51年3月5日初版発行)によりました。    
    2. 新釈漢文大系本には、本文に返り点と句読点がついていますが、ここではそれを省略しました。本文の段落分けも省略してあります。
また、同書には書き下し文・通釈・語釈・余説がついていますので、詳しくは同書を参照してください。
   
    3. 司馬遷『史記』の「伯夷列伝第一」(『史記』巻六十一)が、資料128にあります。
   → 資料128
「伯夷列伝第一」(『史記』巻六十一)
   
    4. 『西郷南洲翁遺訓及遺文』の中に、「一 道ヲ行フ者ハ、天下擧テ毀ルモ足ラザルトセズ、天下擧テ譽ルモ足レリトセザルハ、自ラ信ズルノ厚キガ故也、其ノ工夫ハ、韓文公ガ伯夷ノ頌ヲ熟讀シテ會得セヨ」とあります。(『西郷南洲翁遺訓及遺文』鹿児島県社会事業協会、大正5年11月25日発行・大正6年8月10日再版・大正14年2月5日第3版印刷発行による。)「擧テ」は「こぞって」、「毀ル」は「そしる」、「譽ル」は「ほむる」と読みます。鹿児島県社会事業協会発行の『西郷南洲翁遺訓及遺文』は、国立国会図書館デジタルコレクションに入っています。
     → 国立国会図書館デジタルコレクション
    → 『西郷南洲翁遺訓及遺文』 (14/42  に出ています)

また、幕末と明治の博物館(旧・常陽明治記念館)の創立者・田中光顕伯爵も、韓愈(韓退之)のこの「伯夷頌」の擧世非之力行而不惑」(世を挙げて之を非とするも、力行して惑はず)を自分の主義にしていると話しておられます。
   
 



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