資料545 李密「陳情表」


 

 

     陳 情 表     李 密


臣密言臣以險釁夙遭閔凶生孩六月慈父見背行年四歳舅奪母志祖母劉愍臣孤弱躬親撫養臣少多疾病九歳不行零丁孤苦至于成立既無伯叔終鮮兄弟門衰祚薄晩有兒息外無期功彊近之親内無應門五尺之僮煢煢獨立形影相弔而劉夙嬰疾病常在牀蓐臣侍湯藥未曾廢離
逮奉聖朝沐浴清化前太守臣逵察臣孝廉後刺史臣榮擧臣秀才臣以供養無主辭不赴會詔書特下拜臣郎中
尋蒙國恩除臣洗馬猥以微賤當侍東宮非臣隕首所能上報臣具以表聞辭不就職詔書切峻責臣逋慢郡縣逼迫催臣上道州司臨門急於星火臣欲奉詔奔馳則劉病日篤欲苟順私情則告訴不許臣之進退實爲狼狽
伏惟聖朝以孝治天下凡在故老猶蒙矜育況臣孤苦特爲尤甚且臣少仕僞朝歴職郎署本圖宦達不矜名節今臣亡國賤俘至微至陋過蒙拔擢寵命優渥豈敢盤桓有所希冀但以劉日薄西山氣息奄奄人命危淺朝不慮夕臣無祖母無以至今日祖母無臣無以終餘年母孫二人更相爲命是以區區不能廢遠臣密今年四十有四祖母劉今年九十有六是臣盡節於陛下之日長報劉之日短也烏鳥私情願乞終養
臣之辛苦非獨蜀之人士及二州牧伯所見明知皇天后土實所共鑒願陛下矜愍愚誠聽臣微志庶劉僥倖保卒餘年臣生當隕首死當結草臣不勝犬馬怖懼之情謹拜表以聞

 

 

       (注) 1. 上記の李密「陳情表」(陳情の表)の本文は、新釈漢文大系82『文選(文章篇)上』(原田種
           成著。明治書院、平成6年7月15日初版発行)によりました。
             「陳情表」は、『文選』巻三十七 表類にあります。
           2.  新釈漢文大系の「陳情表」の作者の解説に、「李密(223~289?)一名を虔(けん)といい、字
             は令伯、晉の犍為
(けんい)郡武陽(四川)の人。魏の文帝の黄初4年に生まれ、晉の武帝の末年頃に77
             歳前後で没した。父を早く喪い、母の何氏が再嫁したために祖母劉氏に撫養された。密もまたよく祖母に
                  事え、孝を以て聞こえた。劉氏が病気の時には、密は涕泣側息して衣を解かずに看病し、飲膳湯薬は必
             ず先に嘗めてから祖母に供えすすめたという。譙周
(しょうしゅう)に師事し高足を以て称せられ、蜀に仕え
             て郎となった。蜀が亡んだのち、晉の武帝は詔して密を太子洗馬に徴したが、老病の祖母を奉養する者
             がいないことから固く辞退した。有名な「陳情表」はこの時に奉ったものである。帝はこの疏を覧て感動し、
             密を召すことを中止するとともに奴婢二人を賞賜し、郡県の吏に命じて劉氏に衣食を供せしめた。祖母
                  が寿を以て終わり、その喪の後、密は徴に応じて太子洗馬となり、温州の令、漢中の太守と累遷したが、
                懐怨の詩を賦したということで官を免ぜられ、家に卒した。『晉書』巻八十八「孝友伝」に伝がある
」とあ
            ります。(同書、289~290頁)
            また、同書の「題意」には、「諸葛亮の「前出師表」、韓愈の「祭十二郎文」とともに、この表は世に
             「三絶文」と称されたもので、「(李)令伯の陳情表を読んで涙を墜
(おと)さざる者は、其の人必ず不孝な
              らん」とさえ言われた孝慈の書である」
とあります。(同書、290頁)
             資料117に諸葛孔明「出師表」(前出師表)があります。
             資料113に韓愈「祭十二郎文」があります。  

          3. 新釈漢文大系本には、題意・返り点及び句読点つきの本文・書き下し文・通釈・語釈が
           ありますが、ここでは、返り点・句読点を省いた本文(白文)だけを載せました。なお、改
           行は新釈漢文大系本に拠っています。
 
          4. 国立国会図書館デジタルコレクションの
『漢籍国字解全書』第27巻に、『続文章軌範』
           の「陳情表」が出ています。
            
国立国会図書館デジタルコレクション → 『漢籍国字解全書』第27巻
                                     → 『続文章軌範』の
「陳情表」234/267)
          5. フリー百科事典『ウィキペディア』に、「李密(蜀)」の項があります。 
            
 フリー百科事典『ウィキペディア』 → 李密(蜀)
          6. 上記の『文選』の本文と他の『続文章軌範』『古文真宝』の本文との異同を次に示して
           おきます。(本文はいずれも新釈漢文大系本の『文選(文章篇)上
』『古文真宝(後集)』
           『続文章軌範 下』に拠りました。)
 
                 
『文選』       『続文章軌範』       『古文真宝』       
                 
臣密言          臣密言           なし                
                 夙遭凶         夙遭凶         夙遭
                 臣孤弱         臣孤弱         臣孤弱
                 至成立         至成立         至成立
                 既無伯叔         既無伯叔         既無叔伯                  
                 五尺之
         五尺之         五尺之
                 
         煢         

                 未
廢離         未廢離         未廢離
               則劉病日篤(以なし)     則
劉病日篤       則劉病日篤
                 少
僞朝         少僞朝          少僞朝
                 寵命優渥         寵命優渥          なし  
               陛下矜愚誠        陛下矜愚誠       陛下矜愚誠
                      
保卒餘年         餘年         餘年 
                 死當結
         死當結         死當結
              臣不勝犬馬怖懼之情    臣不勝犬馬怖懼之情    臣不勝怖懼之情(犬馬なし) 

 





                                          
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