資料117 諸葛孔明「出師表」



 

   出  師  表             諸 葛 孔 明

 

 


先帝創業未半而中道崩殂今天下三分益州罷敝此誠危急存亡之秋也然侍衞之臣不懈於内忠志之士忘身於外者蓋追先帝之殊遇欲報之於陛下也誠宜開張聖聽以光先帝遺德恢弘志士之氣不宜妄自菲薄引喩失義以塞忠諫之路也宮中府中倶爲一體陟罰臧否不宜異同若有作奸犯科及爲忠善者宜付有司論其刑賞以昭陛下平明之治不宜偏私使内外異法也侍中侍郎郭攸之費褘董允等此皆良實志慮忠純是以先帝簡拔以遺陛下愚以爲宮中之事事無大小悉以咨之然後施行必能裨補闕漏有所廣益將軍向寵性行淑均曉暢軍事試用於昔日先帝稱之曰能是以衆議擧寵爲督愚以爲營中之事事無大小悉以咨之必能使行陣和睦優劣得所親賢臣遠小人此先漢所以興隆也親小人遠賢臣此後漢所以傾頽也先帝在時毎與臣論此事未嘗不嘆息痛恨於桓靈也侍中尚書長史參軍此悉貞亮死節之臣也陛下親之信之則漢室之隆可計日而待也臣本布衣躬耕南陽苟全性命於亂世不求聞達於諸侯先帝不以臣卑鄙猥自枉屈三顧臣於艸廬之中諮臣以當世之事由是感激許先帝以驅馳後値傾覆受任於敗軍之際奉命於危難之閒爾來二十有一年矣先帝知臣謹愼故臨崩寄臣以大事也受命以來夙夜憂慮恐付託不效以傷先帝之明故五月渡瀘深入不毛今南方已定兵甲已足當奬率三軍北定中原庶竭駑鈍攘除姦凶以復興漢室還于舊都此臣所以報先帝而忠陛下之職分也至於斟酌損益進盡忠言則攸之褘允之任也願陛下託臣以討賊興復之效不效則治臣之罪以告先帝之靈若無興德之言責攸之褘允等之咎以彰其慢陛下亦宜自謀以諮諏善道察納雅言深追先帝遺詔臣不勝受恩感激今當遠離臨表涕泣不知所云 

 

 

 

 

 

 

 




   (注)  1. 本文は新釈漢文大系 16 『古文真宝(後集)』(星川清孝著、明治書院昭和
         38年7月20日初版発行、昭和46年5月10日14版発行)によりました。
          ただし、本文に付けてある返り点・句読点、改行等は、省略しました。
       2. 諸葛亮(しょかつりょう)=三国時代、蜀漢の丞相。字は孔明。山東琅邪(やろう)
            人。劉備の三顧の知遇に感激、臣事して蜀漢を確立した。劉備没後、そ
            の子劉禅をよく補佐し、有名な出師表
(すいしのひょう)を奉った。五丈原で、
            魏軍と対戦中に病死。(181~234) 
          出師表
(すいしのひょう)=蜀漢の諸葛亮(しょかつりょう)が、劉備没後、魏を討つた
            め出陣するにあたり、後主劉禅に奉った前後二回の上奏文。うち後出師
            表は諸葛亮の作でないとされる。
          出師
(すいし)=軍隊をくり出すこと。出兵。   
                                         (この項、『広辞苑』第6版による)
   
       3. 上に掲げた「出師表」は、「前出師表」に当たるものです。
       4. 星川清孝氏は『古文真宝(後集)』の「出師表」の「題意」で、「前表は建興5年
         (227)に、後表は翌年にたてまつったものである。この表中で、孔明は国家の
        将来を思い、君主の安逸を戒め、臣下の忠諫をよく聴くべきことを教えている。
        先主劉備に対する情義を忘れず、純忠至誠、涕泣して書いた孔明の精神は、
        読む人の心を強く打つものがある」といい、「余説」で、「古来『出師表』を読んで
        泣かない者は忠臣でないとまで言われたのも、またまことに故あることである」と
         書いておられます。
       5. 漢和辞典(
改訂新版『漢字源』学習研究社、2002年4月1日改訂新版発行)に、
          「出」 [ 1 シュツ  2 スイ] 
               1 ①自動詞・でる(いづ)。 ②他動詞・だす(いだす)。
               2 ①他動詞・だす(いだす)。
           ◇ 自動詞はシュツ、他動詞にはシュツ・スイの両方の音を用いる。
              ……とあります。 
           「出師表」の場合は、「出」は他動詞ですが、「スイ」をとって、「すいしの
          ひょう」と読んでいます。(なお、「後出師表」は「こうすいしのひょう」と読む
          ようです。)
          ※ 参考までにいえば、「出納」(すいとう
=金銭・物品などの出し入れをする)も、
           「出」を「スイ」と読んでいます。
       6. 「表」=ここは、臣下が君主にあてて奉る文章のこと。「出師─」
       7. 新釈漢文大系18『文章軌範(正篇)下』(前野直彬著、明治書院 昭和37年
         9月15日初版発行、昭和45年5月10日12版発行)に載っている「前出師表」
         との本文の異同を、次に示します。

                      『古文真宝(後集)』 ……… 『文章軌範(正篇)下』
         (題  名)        出師表      …………      出師表
         (作者名)         諸葛孔明    …………    諸葛武侯
         (冒  頭)    先帝創業未半   …………  臣亮言先帝創業未半
         (以下本文)           益州罷敝    …………    益州疲弊
                    先帝之遇   …………    先帝之遇
                     恢志士之氣 …………   恢志士之氣
                     若有作犯科  ………   若有作犯科
                   是以衆議擧寵爲督  …… 是以衆議擧寵爲督
              營中之事事無大小悉以之  …… 營中之事悉以
                    必能使行陣和   ……  必能使行陣和
                      優劣得所   ……………… 優劣得所
                     陛下親之信之 …………  陛下親之信之
                   三顧臣於廬之中   ………… 三顧臣於廬之中
                     許先帝以驅馳    ………… 許先帝以驅馳
                  受命以來夙夜憂    ………… 受命以來夙夜憂
                     當獎三軍   ………………    當獎三軍
                       以復興漢室    ………………  興復漢室
 

 


                                            
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