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上記の上田秋成「菊花の約」の本文は、日本古典文学大系56『上田秋成集』(中村幸彦校注、岩波書店・昭和34年7月6日第1刷発行)によりました。
ただし、本文に施してある段落分けや会話の鉤括弧「 」、また丸括弧( )で補った送り仮名は、これをすべて省略しました。できるだけ版本の原文に近い形にしようと考えたからです。 |
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(1)底本について
凡例に、「本書の底本は安永五年、京都梅村・大坂野村二肆合刻の初版本を用いた」とあります。これは半紙本5巻5冊のものです。 所収は、巻一に白峯・菊花の約、巻二に浅茅が宿・夢応の鯉魚、巻三に仏法僧・吉備津の釜、巻四に蛇性の淫、巻五に青頭巾・貧福論の9篇です 「雨月物語」の版本には、この他に、大本仕立ての文栄堂版の3冊本があり、巻一が上、巻二と巻三が中、巻四と巻五が下になっています。
(2)句読点・振り仮名・送り仮名・濁点等について 底本の句読は皆「。」で示してあるが、文意によって、「、」・「。」に区別した、とあります。
また、「振仮名の底本にあるものは皆とどめ」た、とあります。「送仮名は、底本の振仮名で示すものはそのままにし、全く欠くもののみ補い、それには( )を加えた」た、とありますが、ここでは送り仮名を欠くものを( )で補うことはせず、そのままにしてあります。
濁点については、「濁点の不統一なものは、よろしきに統一した。しかし作者なりの用意の下に用いた清濁は、そのままにした。例えば、半濁点は仏法僧鳥の鳴声以外には全く用いていない。「こと」が下につく熟語は、「俳諧(わざごと)」・「妖言(およづれごと)」・「政(まつりごと)」以外は清んで用いる。(中略)「若侍(わかさむらひ)」・「旅人(たびひと)」の如く、連濁を普通とするものにも清むものがある。「眠(ねふり)」・「とふらひ」・「浮ふ」・「かたふく」の如く、「む」ともかえて用いられる「ふ」、及びその活用の「浮ひ」の如きは悉く清むなどである」とあります。 また、「明らかな誤字・極端な異体字以外の漢字は、略字と共にそのまま存した。仮名は悉く現行字体に改めた」とあります。(引用者注:例えば、同じ漢字でも「富」「冨」、「舊」「旧」が使われ、「実」「礼」などの略字体も用いられています。ただし、「社」など一部の漢字は、正字が表記できないので、原文には正字なのにここでは略字体になっているものもありますから、必ずしも漢字の字体は厳密ではありません。この点、ご注意ください。)
なお、原文にない句点を校訂者が補った部分があります。 丈部(はせべ)左門(もん)といふ博士あり。 ねがふは捨ずして伯氏(あに)たる敎(をしへ)を施(ほどこ)し給へ。 功名(こうめい)冨貴(ふうき)はいふに足(たら)ず。 |
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3. |
古典文学大系本では、会話の鉤括弧が用いてあるため、〈あるじ答ふ。「これより……」〉となっているのを、ここでは鉤括弧を省いたため、〈あるじ答ふ、これより……」〉と鉤括弧の前の句点を読点に改めてあります。
そのために、会話文が終わっていないのに、途中で句点が出て来るという、やや不自然な形(誰それ曰く、**。***。**と。)になっていますが、ご了承ください。
原 文 誰それ曰く。**。***。**と。 古 典 大系本 誰それ曰く、「**。***。**」と。 ここでの本文 誰それ曰く、**。***。**と。 |
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ここでは、本文の振り仮名を丸括弧( )に入れて示しました。
また、本文や振り仮名の、平仮名の「く」を縦に伸ばした形の繰り返し符号は、普通の文字に直してあります。(「をさをさしく」「きえぎえ に」「つらつ ら」「泣く泣く」など。ただし、「只只」となる場合だけ、「只々」としました)。
なお、本文中に「家童(わらべ)」「御恩(めぐみ)」「陰風(かぜ)」と下線をほどこしたのは、「家童」「御恩」「陰風」の2字で、それぞれ「わらべ」「めぐみ」「かぜ」と読むことを示 したもので、原文に下線 があるわけではありません。
また原文に、「古」の下に「又」と書いた異体字「事」が出ていますが、これはうまく表記できないので、「事」としてあります。
○「恃*(わざわざ)」の「恃」は、〈「特」の誤刻〉と大系の頭注にあります。
○「このほとりの渡りは必怯(をびゆ)べし。な恚(ふくつみ)給ひそ。」の「ふくつみ」について、古典大系本の頭注に、〈字典「恨怒也」。神代紀上「哭恚(なきふづくむこと)」。秋成は長く、このように誤り用いた。〉とあります。(『広辞苑』(第6版):「ふつくむ【恚む・憤む】〔自四〕(後世、フズクムとも)怒る。腹を立てる。大唐西域記長寛点「戒日王殊に忿フツクメる色無く」) |
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5. |
「然(さめざめ)」の「」という漢字は、島根県立大学の “e漢字” を利用させていただきました。 |
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6. |
「雨月物語」についての巻頭の解説を少し引かせていただくと、
「(「菊花の約」は)中国白話小説集古今小説の「范巨卿雞黍死生交」を原話とし、後漢書の范式伝に発する中国舌耕文学の筋を、文章のとるべき所は採って、かなり忠実に追う翻案小説の正系を行くものである。従ってその寓意も、冒頭に訳出した原話の結交行が説く信愛である。が秋成はその日本化に幾つかの相違でその手腕を示した。(以下略)」(同書、11頁) とあります。詳しくは、同書を参照してください。
『法政大学デジタルアーカイブ』に『正岡子規文庫』があり、その中に『古今小説』自十四
到十六があり、そこで巻十六「范巨卿雞黍死生交」(コマ番号44~/54)が見られます。
なお、資料448 「范巨卿雞黍死生交(『古今小説』より)」があります。 |
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7. |
岩波文庫の『雨月物語』(上田秋成作・鈴木敏也校訂、昭和9年9月30日第1刷発行)は、文栄堂版(3冊本)を底本にしています。 文庫巻頭の解題によれば、『雨月物語』は明和5年(秋成35歳)の執筆で、安永5年(43歳)に出版されたが、その刊本には野梅堂版(安永5年出版)と文栄堂版(出版年代不明。文栄堂版のほうが早くはないかという説もある由)の2種あるが、板下は両本とも同一で、用紙と綴じ方が異なっているだけだそうです。(同書、4頁) |
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8. |
〇上田秋成(うえだ・あきなり)=江戸後期の国学者・歌人・読本作者。本名は東作。大坂の人。加藤宇万伎に師事。万葉集・音韻学にも通じ、宣長と論争。著「雨月物語」「春雨物語」「胆大小心錄」「癇癖談(くせものがたり)」「藤簍冊子(つづらぶみ)」など。(1734-1809)
〇雨月物語(うげつものがたり)=読本(よみほん)。上田秋成作。5巻5冊。1768年(明和5)成稿、76年(安永5)刊。「白峰」以下日本・中国の古典から脱化した怪異小説9編から成る。(以上、『広辞苑』第6版による。) |
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9. |
フリー百科事典『ウィキペディア』に「上田秋成」・「雨月物語」の項があります。 |
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10. |
『日本古典文学摘集』というサイトに、『雨月物語』の原文・現代語訳があります。 → 巻之一「二 菊花の約」の本文(振り仮名なし) ここには、「菊花の約」の現代語訳もあります。 → 巻之一「二 菊花の約」の現代語訳 |
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11. |
『東京大学総合研究博物館』というサイトで、文栄堂蔵板・全3冊の『雨月物語』(東京大学文学部国文学研究室・所蔵)を画像で見ることができます。
『東京大学総合研究博物館』 → 「デジタルミュージアム展 展示内容」
→ 『雨月物語』 → 『雨月物語』(文栄堂蔵板・全3冊) |
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12. |
『バージニア大学図書館』の「日本文学テキストイニシアチブ」というサイトに、野梅堂版の『雨月物語』(原文)があって、全文を読むことができます。 このサイトは、The University of Virginia Library Electronic Text Center and the University of Pittsburgh East Asian Library によって運営されているものだそうです。 |
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13. |
『高崎経済大学論集』第48巻第4号に、中田妙葉氏の「「菊花の約」における「信義」について─中国白話小説「范巨卿鶏黍死生交」との関係による一考察─」という論文があります。 |
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14. |
『大阪大学学術情報庫』(大阪大学リポジトリ)に、飯倉洋一氏の「「菊花の約」の読解─〈近世的な読み〉の試み─」があります。 |
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15. |
李国勝氏の「「菊花の約」考」という論文(同志社国文学会・昭和61年12月30日発行の『同志社国文学』第28号掲載)があります。 → 李国勝 「菊花の約」考 |
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16. |
国立国会図書館デジタルコレクションに、藤村作註解の『雨月物語』(昭和10年11月9日
栗田書店発行)があります。 |
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