資料403 「魏武嘗過曹娥碑下」(『世説新語』捷悟第十一より)





           
 魏武嘗過曹娥碑下     『世説新語』捷悟第十一より

 

魏武嘗過曹娥碑下楊脩從碑背上見題作黄絹幼婦外孫臼八字魏武謂脩曰解不答曰解魏武曰卿未可言待我思之行三十里魏武乃曰吾已得令脩別記所知脩曰黄絹色絲也於字爲絶幼婦少女也於字爲妙外孫女子也於字爲好臼受辛也於字爲辭所謂絶妙好辭也魏武亦記之與脩同乃歎曰我才不及卿乃覺三十里 

 

 

 

會稽典錄曰孝女曹娥者上虞人父盱能撫節按歌婆娑樂神漢安二年迎伍君神泝濤而上爲水所淹不得其尸娥年十四號慕思盱乃投瓜于江存其父尸曰父在此瓜當沈旬有七日瓜偶沈遂自投於江而死縣長度尚悲憐其義爲之改葬命其弟子邯鄲子禮爲之作碑按曹娥碑在會稽中而魏武楊脩未嘗過江也異苑曰陳留蔡邕避難過呉讀碑文以爲詩人之作無詭妄也因刻石旁作八字魏武見而不能了以問羣寮莫有解者有婦人浣於汾渚曰第四車解既而禰正平也衡即以離合義解之或謂此婦人即娥靈也


 

 

     (注) 1. 本文は、新釈漢文大系77『世説新語 中』(目加田誠著、明治書院・昭和51年6月25
           日初版発行)によりました。ただし、返り点・句読点、改行等は、省略しました。
            新釈漢文大系には、他に、書き下し文・通釈・語釈があります。(ただし、「會稽典錄
           曰……」の部分は、通釈だけで、書き下し文はありません。)

              2. 本文の底本については、新釈漢文大系76『世説新語 上』の凡例に、「前田家尊経
           閣本世説新語を底本とし、袁褧刊本を参照して、宋本の誤りと思われるところは袁本
           に拠った」とあります。
            一段下げて組んである本文(「會稽典錄曰……」)は、劉孝標の注の部分です。
              3. 魏武とは、魏の武王、曹操のことです。
                     なお、本文中の「
」は、「虀」の異体字で、島根県立大学の“e漢字”を利用させて
           いただきました。
             新釈漢文大系の目加田氏の語釈に、「
は、なます。あえもの。香辛料を入れて
           細かくきざんだ野菜や肉のこと」とあります。また、「
臼受辛也於字爲辭」の「辭」に
           ついて、「唐写本には「辤」に作る。なお、「辤」は「辭」の古字。この形から、辛みを受
           け入れることに結びつけたのである」とあります。
            つまり、なますは香辛料を使って辛い味付けをするものなので、
臼は「辛みを受け
           入れるもの」=「辤」(辭)ということになる、というわけです。
             また、「瓜」についての語釈に、<唐写本には「衣」に作る。『後漢書』巻114孝女曹
           娥伝の李賢注には、項原の『列女伝』を引き、「娥、衣を水に投じ、祝して曰く、父の屍
           の在る所、衣当に沈むべし、と。……衣の字或いは瓜に作る」と記されている>とあり
           ます。
              4. 世説新語(せせつしんご)=後漢から東晋に至る貴族・学者・文人・僧侶・女性など
                   の徳行・言語・文学などに関する逸話を36門に分類し収録した書。3巻。
                   南朝宋の劉義慶編。5世紀前半に成る。
             曹娥(そうが)=後漢の孝女。父曹盱が洪水のために溺死した場所に投身して死ん
                   だ。中国浙江省紹興に地名として残り、廟がある。(130-143)

             
 曹操(そうそう)=三国の魏の始祖。字は孟徳。江蘇沛県の人。権謀に富み、詩を
                   よくした。後漢に仕えて黄巾の乱を平定、袁紹を滅ぼし、華北を統一、魏
                   王となる。没後武王と諡
(おくりな)。その子丕(ひ)が帝を称し魏を建て、追尊
                   して武帝という。廟号は太祖。(155-220)
              有知無知三十里(ゆうちむち・さんじゅうり)=〔世説新語捷悟〕(後漢の楊脩と曹操が
                   共に江南の地を歩いていた時、見かけた碑文を、楊脩は即座に理解した
                   が曹操は30里ほど歩いてようやく悟った、という故事から)知恵のある者
                   と知恵のない者との差の甚だしいことにいう。有智無智三十里。
                                             
(以上、『広辞苑』第6版による。)
           5. 中国のサイトに
諸子百家 中國哲學書電子化計劃』があり、ここで『世説新語』の本文
            を見ることができます。
                 → 
諸子百家 中國哲學書電子化計劃』『世説新語』の「捷悟」
           6. フリー百科事典『ウィキペディア』に、『世説新語』の項があります。
           7. 資料404に、王羲之「孝女曹娥碑」〈古拓本より〉があります。
           8. 『世説新語』(捷悟第十一)の上記の話のすぐ前に、次のような文字の話が出ていま
           す。

             人餉魏武一盃酪魏武噉少許蓋頭上題合字以示衆衆莫能解次至楊脩
             脩便噉曰公敎人噉一口也復何疑 
             
              
人、魏武に一盃の酪(らく)を餉(おく)る。魏武、噉(くら)ふこと少許(せうきよ)
                にして、蓋頭上(がいとうじやう)に合の字を題し、以て衆に示す。衆、能く解す
               るもの莫(な)し。次(つ)いで楊脩(やうしう)に至る。脩、便(すなは)ち噉(くら)
               ひて曰はく、「公、人をして一口噉(くら)はしむるなり。復た何ぞ疑はん」と。
                   
語注:  酪……牛や羊の乳を発酵させて作った飲料。
                          蓋頭上……蓋(ふた)の上。




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