資料327 世界人権宣言(1948年・国連総会で採択)



 

  世界人権宣言 

     [ 1948(昭和23)年12月10日、国際連合総会を通過し、且つ、
      これによって宣言された。]
 

 

 

前 文
 人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじつた野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、
 人間が専制と圧迫とに対する最後の手段として反逆に訴えることがないようにするためには、法の支配によつて人権を保護することが肝要であるので、
 諸国間の友好関係の発展を促進することが、肝要であるので、
 国際連合の諸国民は、国際連合憲章において、基本的人権、人間の尊厳及び価値並びに男女の同権についての信念を再確認し、かつ、一層大きな自由のうちで社会的進歩と生活水準の向上とを促進することを決意したので、
 加盟国は、国際連合と協力して、人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の促進を達成することを誓約したので、
 これらの権利及び自由に対する共通の理解は、この誓約を完全にするためにもつとも重要であるので、
 よつて、ここに、国際連合総会は、
 社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によつて促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によつて確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。

第一条
 すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもつて行動しなければならない。

第二条
 すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。
2 さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。

第三条
 
すべて人は、生命、自由及び身体の安全に対する権利を有する。
第四条
 
何人も、奴隷にされ、又は苦役に服することはない。奴隷制度及び奴隷売買は、いかなる形においても禁止する。
第五条
 
何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは屈辱的な取扱若しくは刑罰を受けることはない。
第六条
 
すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。
第七条
 
すべての人は、法の下において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。すべての人は、この宣言に違反するいかなる差別に対しても、また、そのような差別をそそのかすいかなる行為に対しても、平等な保護を受ける権利を有する。

第八条
 
すべて人は、憲法又は法律によつて与えられた基本的権利を侵害する行為に対し、権限を有する国内裁判所による効果的な救済を受ける権利を有する。
第九条
 
何人も、ほしいままに逮捕、拘禁、又は追放されることはない。
第一〇条
 
すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決定されるに当つて、独立の公平な裁判所による公正な公開の審理を受けることについて完全に平等の権利を有する。
第一一条
1 犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従つて有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。
2 何人も、実行の時に国内法又は国際法により犯罪を構成しなかつた作為又は不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰を課せられない。
第一二条
 
何人も、自己の私事、家族、家庭若しくは通信に対して、ほしいままに干渉され、又は名誉及び信用に対して攻撃を受けることはない。人はすべて、このような干渉又は攻撃に対して法の保護を受ける権利を有する。
第一三条
1 すべて人は、各国の境界内において自由に移転及び居住する権利を有する。
2 すべて人は、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する。

第一四条
1 すべて人は、迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、避難する権利を有する。
2 この権利は、もつぱら非政治犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を原因とする訴追の場合には、援用することはできない。
第一五条
1 すべて人は、国籍をもつ権利を有する。
2 何人も、ほしいままにその国籍を奪われ、又はその国籍を変更する権利を否認されることはない。
第一六条
1 成年の男女は、人種、国籍又は宗教によるいかなる制限をも受けることなく、婚姻し、かつ家庭をつくる権利を有する。成年の男女は、婚姻中及びその解消に際し、婚姻に関し平等の権利を有する。
2 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合意によつてのみ成立する。
3 家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であつて、社会及び国の保護を受ける権利を有する。 
第一七条
1 すべて人は、単独で又は他の者と共同して財産を所有する権利を有する。
2 何人も、ほしいままに自己の財産を奪われることはない。
第一八条
 
すべて人は、思想、良心及び宗教の自由に対する権利を有する。この権利は、宗教又は信念を変更する自由並びに単独で又は他の者と共同して、公的に又は私的に、布教、行事、礼拝及び儀式によつて宗教又は信念を表明する自由を含む。
第一九条
 
すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。

第二〇条
1 すべての人は、平和的集会及び結社の自由に対する権利を有する。
2 何人も、結社に属することを強制されない。
第二一条
1 すべての人は、直接に又は自由に選出された代表者を通じて、自国の政治に参与する権利を有する。
2 すべて人は、自国においてひとしく公務につく権利を有する。
3 人民の意思は、統治の権力の基礎とならなければならない。この意思は、定期のかつ真正な選挙によつて表明されなければならない。この選挙は、平等の普通選挙によるものでなければならず、また、秘密投票又はこれと同等の自由が保障される投票手続によつて行われなければならない。
第二二条
すべて人は、社会の一員として、社会保障を受ける権利を有し、かつ、国家的努力及び国際的協力により、また、各国の組織及び資源に応じて、自己の尊厳と自己の人格の自由な発展とに欠くことのできない経済的、社会的及び文化的権利を実現する権利を有する。
第二三条
 すべて人は、勤労し、職業を自由に選択し、公正かつ有利な勤労条件を確保し、及び失業に対する保護を受ける権利を有する。
2 すべて人は、いかなる差別をも受けることなく、同等の勤労に対し、同等の報酬を受ける権利を有する。
3 勤労する者は、すべて、自己及び家族に対して人間の尊厳にふさわしい生活を保障する公正かつ有利な報酬を受け、かつ、必要な場合には、他の社会的保護手段によつて補充を受けることができる。
4 すべて人は、自己の利益を保護するために労働組合を組織し、及びこれに参加する権利を有する。
第二四条
 
すべて人は、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇を含む休息及び余暇をもつ権利を有する。
第二五条
 すべて人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。
2 母と子とは、特別の保護及び援助を受ける権利を有する。すべての児童は、嫡出であると否とを問わず、同じ社会的保護を受ける。
第二六条
 すべて人は、教育を受ける権利を有する。教育は、少なくとも初等の及び基礎的の段階においては、無償でなければならない。初等教育は、義務的でなければならない。技術教育及び職業教育は、一般に利用できるものでなければならず、また、高等教育は、能力に応じ、すべての者にひとしく開放されていなければならない。
2 教育は、人格の完全な発展並びに人権及び基本的自由の尊重の強化を目的としなければならない。教育は、すべての国又は人種的若しくは宗教的集団の相互間の理解、寛容及び友好関係を増進し、かつ、平和の維持のため、国際連合の活動を促進するものでなければならない。
3 親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する。
第二七条
 すべて人は、自由に社会の文化生活に参加し、芸術を鑑賞し、及び科学の進歩とその恩恵とにあずかる権利を有する。
2 すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する。
第二八条
 
すべて人は、この宣言に掲げる権利及び自由が完全に実現される社会的及び国際的秩序に対する権利を有する。
第二九条
 すべて人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあつてのみ可能である社会に対して義務を負う。
2 すべて人は、自己の権利及び自由を行使するに当つては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保障すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもつぱら目的として法律によつて定められた制限にのみ服する。
3 これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない。
第三〇条
 
この宣言のいかなる規定も、いずれかの国、集団又は個人に対して、この宣言に掲げる権利及び自由の破壊を目的とする活動に従事し、又はそのような目的を有する行為を行う権利を認めるものと解釈してはならない。

 

 

  

    (注) 1. 上記の「世界人権宣言」(Universal Declaration of Human Rights)の本文は、『有斐
         閣 判例六法 Professional 平成22年版  01』(有斐閣、平成21年10月30日発
         行)によりました。
                     促音が大きく表記されている点が注目されます。(「法の支配によつて」「もつと
         も重要である」など。)
         2. 「世界人権宣言」の日本語訳について
           外務省のホームページに現在出ている
「世界人権宣言」(仮訳文)の本文は、
         促音が小さく表記されており、また、部分的にここに掲げた訳文と異なるところが
         あります。例えば、 
         
 (1)第一〇条に「すべて人は、自己の権利及び義務並びに自己に対する刑事責任が決
             定されるに当つて、……」とあるところが、「すべて人は、自己の権利及び義務並びに
             自己に対する刑事責任が決定されるに当って、……」となっています。
           (2)第二一条の「1 すべて人は、直接に又は自由に……」が、「1 すべて人は、直接
             に又は自由に……」となっています。 同じ第二一条の「3 人民の意思は、統治の権力
             基礎とならなければならない。」が、「3 人民の意思は、統治の権力基礎とならな
             ければならない。」となっています。この「を」は、多分入力ミスでしょう。
           また、本によっては、第一六条の「2 婚姻は、両当事者の自由かつ完全な合
         意によつてのみ成立する。」が、「2 婚姻は、婚姻の意思を有する両当事者の
         自由かつ完全な合意によつてのみ成立する。」となっているものがあります。
(例
          えば、国連のホームページに出ている日本語訳や、『岩波コンパクト六法 平成14(2002)
          年版』など。)                               
 (2010年4月4日現在)            

          「世界人権宣言」の日本語訳は、本によって細かな部分で異なった本文になっ
         ています。「世界人権宣言」の標準日本語訳は、新しい六法全書に出ている本文
        
 (例えばここに引いた『有斐閣 判例六法 Professional 平成22年版  01』所収のもの)を標
         準日本語訳と考えてよいのでしょうか。これは、促音が大きく表記されている点
         が気になりますが。
          それにしても、外務省の
ホームページに出ている日本語訳が、半世紀を経た現在にお
          いても、いまだに「仮訳文」であるのは、なんと言ったらいいでしょうか。

         3.  英文の「世界人権宣言」の本文を、“UNITED NATIONS”(国際連合)のホ
         ームページで見ることができます。          
            
“UNITED NATIONS”The Universal Declaration of Human Rights

         ※ “UNITED NATIONS”(国際連合)のホームページにも、「世界人権宣言」の
         日本語訳が出ていますが、この国連のホームページに出ている訳は、外務省のホ
         ームページに出ているものとも、また、ここに掲げた本文とも、少しずつ違っています。
         2010年4月5日現在、国連のホームページの日本語訳には、明らかな誤りが数か
         所見受けられます。
         4. 世界人権宣言(せかいじんけんせんげん)=1948年の国連総会で採択された
              宣言。前文と本文30ヵ条から成る。法的拘束力はないが、国際的にすべ
              ての人およびすべての国が尊重しなければならない人権の共通の基準を
              示したものとして重要な意義をもつ。      

            参考: 人権宣言(じんけんせんげん)=(Déclaration des droits de l'homme et
                  du citoyen) 人民の自由・平等の権利に関する』宣言。1789年8
                  月、フランス革命当初、ラファイエットらの動議に基づき、憲法制定
                  議会によって裁決。前文と17条から成り、主権在民、法の下の平
                  等、所有権の不可侵などを宣言。 
                                        
(以上、『広辞苑』第6版による。)


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