資料301 武島羽衣・作詞「花」の碑


                           
                                           

 

   武島羽衣・作詞「花」の碑

 毎年、春になって花の便りが届くようになると、誰もが思わず口ずさむ素敵な
メロディー「花」。そうです、武島羽衣作詞、瀧廉太郎作曲の、あの歌です。
 「春のうららの隅田川、のぼりくだりの船人が 櫂のしづくも花と散る、……」
 金田一春彦氏によれば、作曲者の瀧廉太郎が「芸術的な日本歌曲の第1号」と
して発表したものであり、また実際に日本歌曲の第1号となったこのすぐれた歌
は、今に至るまで多くの人に愛され歌い継がれています。
 十数年前、友人と二人で都内の桜を訪ね歩き、上野公園から隅田川の堤へと歩
みを進めてこの碑を訪れたことを、懐かしく思い起こします。
 その日は、それから谷中霊園、靖国神社、そして千鳥ヶ淵と訪ね歩いて、満開
の桜を愛で尽くしたことでした。


  
武島羽衣作詞の「花」の歌詞をぜひ資料の一つとして掲載したいと思いましたが、作詞
  の著作権がまだ切れていません。そこで、浅草近くの隅田川のほとりの隅田公園にある
  歌碑の写真で我慢することにしました。
   幸い、「桜橋で花を歌う会」というホームページの管理者の方
(熊さん!クマさん!どっと混
   む。 kuma3kuma3.com)
に画像の転載をお願いしたところ、快くお許しが得られましたので、
  ここに碑の写真を掲載して歌詞の掲載に代えさせていただくことにしました。

 



「花」の碑 (武島羽衣詠並書)

武島羽衣作詞 「花」
                   
(「桜橋で花を歌う会」のホームページより転載)
 



「花」の碑・全景

「花」の碑・全景 
                    
(写真は「下総の熊可"ゐ」様より頂戴しました)

 


 


       (注) 1. 上掲の「「花」の碑(武島羽衣詠並書)」の写真は、『桜橋で花を歌う会』というホームページの
        管理者
の方(熊さん!クマさん!どっと混む。kuma3kuma3.com)から、お許しを得て転載させていただき
        ました。ここに記して謝意を表します。 
         また、「「花」の碑・全景」の写真は、同じく「下総の熊可"ゐ」様より頂戴しました。ありがとうござ
        います。碑の向かって右後方に、台東区教育委員会による「花」の碑の解説板が写っています。
          (解説文は注8に掲げてありますので、それをご覧ください。
2009年3月30日追記)                   
       2. 歌曲「花」の出典は、共益商社楽器店・明治33年11月発行の、瀧廉太郎
(作曲)『四季(花、納涼、
          月、雪)
』です。(これは、ワイド版岩波文庫『日本唱歌集』(堀内敬三・井上武士編、岩波書店・1991年6月26
         日第1刷発行、2001年4月5日第10刷発行)巻末の「参考文献」によりました。)
 
           なお、「納涼」は東くめ作詞、「月」は瀧廉太郎作詞、「雪」は中村秋香作詞です。(講談社文庫『日本の唱
         歌[上]による。)
       
       3. この「花」の歌詞の筆跡は、碑面に「羽衣詠並書」とある通り、作者・武島羽衣自身によるもの
        です。
         この歌の碑は、隅田川べりの、浅草側の隅田公園内(東京都台東区浅草7-1)に、昭和31
        年11月3日に建てられました。
       4. 瀧廉太郎 の曲でよく知られているこの歌は、作曲者自身が芸術的な日本歌曲の第1号として

         
発表したものといわれ(講談社文庫『日本の唱歌[上]』の金田一春彦氏の解説)、そのすぐれた旋律は
        今もなお多くの人によって愛され歌い続けられています。
       5. 「のぼりくだりの船人が」の「が」について。
         この「船人が」の「が」は主格助詞ではなく、連体格助詞です。つまり、「船人が櫂」で、「船人
        の櫂」(船人の持つ櫂)という意味になるわけです。したがってここの意味は、「船人の手にする
        櫂から滴り落ちる滴(しずく)も花のように散る、この眺めを、何に譬えたらよいであろうか、譬え
        るものもないすばらしい眺めである」ということになります。
       6. 武島羽衣(たけしま・はごろも)=歌人・詩人。名は又次郎。東京生れ。東大卒。塩井雨江・大
             町桂月らとともに赤門派(大学派)の詩人・美文家として知名。共著「美文韻文花紅葉」
             など。(1872~1967)                     (『広辞苑』第6版による)
         武島羽衣(たけしま・はごろも)=(1872-1967)歌人・国文学者。東京生まれ。本名、又次
             郎。東大卒。古典的な美文をもって知られ、滝廉太郎作曲「花」の詩は有名。著「霓裳
             
(げいしよう)微吟」「国歌評釈」など。                (『大辞林』第2版による)
         武島羽衣(たけしま・はごろも)=明治5・11・2-昭和42・2・3(1872-1967) 歌人、詩
             人。本名又次郎。東京生れ。東大国文科卒。東京女高師、日本女子大に教鞭をとった。
             塩井雨江、大町桂月らとともに大学派の詩人、美文家として知られた。共著『
美文韻文
             紅葉』(明29刊)、『新撰詠歌法』(明32刊)、『国歌評釈』(3巻、明32-33刊)、詩文
             集『
美文韻文霓裳(げいしょう)微吟』(明36刊)などがあり、『天然の美』の作詞者でもある。
             御歌所寄人
(おうたどころ・よりうど)ともなったが、作風は旧派の域を出ていない。(石丸 久)
                                            
(『増補改訂新潮日本文学辞典』1988年による)
                引用者注:
ここに『天然の美』とあるのは、「美しき天然」のことであると思われます。
                      空にさへづる鳥の声
                      峯より落つる滝の音、 
                      大波小波鞺鞺と 
                      響き絶えせぬ海の音、
                      聞けや人々面白き
                      此の天然の音楽を。
                      調べ自在に弾き給ふ 
                      神の御手の尊しや。  (「美しき天然」1番の歌詞)

       7. なお、武島羽衣の作詞では、この「花」のほか、上にも出た「美しき天然」(作曲・田中穂積)が
        よく知られていますが、「文部省唱歌の中にも作があるはずであるが、今はどれがそうか不明」
        と、『日本の唱歌[上]』にあります。

       8. 「花」の碑の向かって右後方に、台東区教育委員会の立てた解説板があります。(お断り:引用
         者が漢数字を算用数字に改めてあります。)


             
花の碑       
                                            台東区浅草7丁目1番  
               春のうららの隅田川
              のぼりくだりの船人が……
           武島羽衣作詞・滝廉太郎作曲「花」。本碑は、羽衣自筆の歌詞を刻み、昭和31年11月3
          日、その教え子たちで結成された「武島羽衣先生歌碑建設会」によって建立された。
           武島羽衣は、明治5年、日本橋の木綿問屋に生まれ、赤門派の詩人、美文家として知られ
 
         る人物である。明治33年、東京音楽学校(現、東京芸術大学)教授である武島羽衣と、同校
          の助教授、滝廉太郎とともに、「花」を完成した。羽衣28歳、廉太郎21歳の時であった。
           滝廉太郎は、作曲者として有名な人物であるが、よく知られているものに「荒城の月」「鳩
          ぽっぽ」などがある。「花」完成の3年後、明治36年6月29日、24歳の生涯を閉じた。
           武島羽衣はその後、明治43年から昭和36年退職するまでの長い間、日本女子大学で
          教鞭をふるい、昭和42年2月3日、94歳で没した。
           手漕ぎ舟の行き交う、往時ののどかな隅田川。その情景は、歌曲「花」により、今なお多く
          の人々に親しまれ、歌いつがれている。
                                                  台東区教育委員会

             引用者注:ここに挙げてある瀧廉太郎の作曲した「鳩ぽっぽ」という歌は、東(ひがし)くめ作詞の「鳩
               ぽっぽ 鳩ぽっぽ ポッポポッポと 飛んで来い お寺の屋根から 下りて来い 豆をやるから み
               な食べよ 食べても直(すぐ)に 帰らずに ポッポポッポと 鳴いて遊べ」という歌詞に作曲したも
               ので、『幼稚園唱歌』(明治34年7月刊)に収められているものです。文部省唱歌の「鳩」(
作詞者・ 
               
作曲者ともに不詳。 ぽっ ぽっ ぽ、鳩ぽっぽ、豆がほしいか、そらやるぞ。みんなで仲善く食べに
               来い。)という歌とは違います。
                なお、東くめ作詞の歌としては、他に「もういくつ寝ると お正月 お正月には 凧あげて……」の
               「お正月」(同じ『幼稚園唱歌』所収)があり、これも瀧廉太郎の作曲によるものです。

          〇
『台東区文化ガイドブック・文化探訪』というサイトに、『台東区の史跡・名所案内』があり、
           その中に「花の碑」のページがあって、そこにも同じ解説文が出ています。
            
(『台東区文化ガイドブック・文化探訪』 → 『台東区の史跡・名所案内』 → 史跡
                                                → 「浅草・花川戸・雷門」 → 花の碑)

       9. 『ごんべ007の雑学村』というサイトに「なつかしい童謡・唱歌・わらべ歌・歌謡・寮歌・民謡」
        があり、そこで瀧廉太郎作曲の「花」のメロディー(MIDI)を聴くことができます。
          
 曲名索引  →   「は」 →   「花(春のうららの隅田川)[歌詞と演奏]」   →   「花」
         
 (引用者注:ここの歌詞に「櫂(かひ)」と振り仮名がありますが、櫂の正しい歴史的仮名遣いは「かい」です。これは
            元にした本に「かひ」とあったのに従ったものでしょう(例えば、岩波文庫『日本唱歌集』など)。原本にどうなってい
            るのかは確認していませんが、「花」の碑にある作者自身の筆跡には、正しく「かい」となっています。)    

       10. MP3というファイル形式で、瀧廉太郎作曲の「花」のメロディー(組歌「四季」の全曲
(花・納涼・
          月・雪)
のメロディーも)を聴くことができます。      
          
 『あそびの音楽館』  →   作曲家別作品一覧   →  「T」をクリック  →  瀧廉太郎・組歌「四季」
                                        →   「花(Hana)」
または「組歌「四季」・全曲連続再生」
         (組歌「四季」の全曲
(花・納涼・月・雪)のメロディーを、ぜひ聴いてみてください。)
       11. 『朋盟のホームページ』というサイトに「愛唱歌歌詞解説」のページがあり、そこに「花」の歌詞
       解説があって参考になります。
       12. 「花」の碑の碑陰の文字を写しておきます。

 

昭和三十一年十一月三日
武島羽衣先生歌碑建設会建之

   
武島羽衣先生の我国詩界
     に於ける業績を記念せんとして
    われ等この歌碑を建つ

      設計 
龍居松之助

       (枠外) 向島永楽園永井
             東京谷中石六刻

 






                            
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