資料11  立原道造の詩「はじめてのものに」




 

 

     はじめてのものに

 

 

                  立      
 

 

 

ささやかな地異は そのかたみに
灰を降らした この村に ひとしきり
灰はかなしい追憶のやうに 音立てて
樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた

その夜 月は明(あか)かつたが 私はひとと
窓に凭(もた)れて語りあつた(その窓からは山の姿が見えた) 
部屋の隅々に 峡谷のやうに 光と
よくひびく笑ひ声が溢れてゐた

───人の心を知ることは……人の心とは…… 
私は そのひとが蛾を追ふ手つきを あれは蛾を
把へようとするのだらうか 何かいぶかしかつた

いかな日にみねに灰の煙の立ち初(そ)めたか
火の山の物語と……また幾夜さかは 果して夢に
その夜習つたエリーザベトの物語を織つた 

 



           
  (注) 1.  詩の本文は、岩波文庫版『立原道造詩集』(杉浦明平編・1988年3月16日第1刷発行)によりました。詩の表記は、勿論縦書きです。  
    2.  詩集でのルビは、( )に置き換えました。  
    3.  第2節の「明かつた」の「明」の読みについて
 第2節の「明かつた」の「明」に「あか」とルビが振ってあるので、「明かつた」は、「あかるかった」ではなく、「あかかった」と読むことになります。編者の杉浦氏によれば、作者の立原がそう読んでいたから、ということでした。(問い合わせの返信による。)
 古語「明(あか)し」としての用法を採ったものだと思われます。
 
    4.  上記文庫本の解説に、杉浦氏が「立原は字面(じづら)の美しさに敏感で、漢字と仮名のまじり具合なども疎かにしなかった。(印刷する場合には装幀はもちろん活字や紙質についても。)」と書いておられます。
 それなのに、詩をこのように横書きにしたり、( )で読み仮名を付けたりするのは忍びませんが、ご容赦願います。
 
    5.  この詩は、詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』の巻頭の詩です。
詩集『萱草に寄す』に収められている詩は、次の10編です。
     SONATINE №1  
 「はじめてのものに」「またある夜に」「晩き日の夕べに」「わかれる昼に」
 「のちのおもひに」「夏花の歌 その一」「夏花の歌 その二」
     SONATINE№2
 「虹とひとと」「夏の弔ひ」「忘れてしまつて」
 
    6.  「ささやかな地異」とは、浅間山の小噴火を、「エリーザベトの物語」とは、シュトルムの小説『みずうみ』(Immensee)を指しています。  
    7.  なお、立原道造については、「立原道造記念館」のホームページが参考になります。
 ただし、「立原道造記念館」は事情により2010年9月27日を以て休館しているそうです。
 
    8.   立原道造の詩は、『つれづれの文車─趣味の文書室─』というサイトに「立原道造」のページがあり、そこで岩波文庫からとった彼の詩を読むことができます。  
    9.   電子図書館「青空文庫」でも、立原道造の詩を読むことができます。   
    10.  また、メールマガジン「立原道造詩集」が出ていましたが、現在は見られないようです。
 ただ、さいたま市図書館のホームページの中に「バックナンバー」のコーナーがあり、そこに出ている「さいたま市図書館メールマガジン」平成30年1月1日第95号に、「4 さいたま市ゆかりの本と人」の記事があって、「●詩人たちが好んだ別所沼の風景」に、神保光太郎と立原道造の記事が出ています。
「さいたま市図書館メールマガジン」平成30年1月1日第95号
 
 
    11.  日本ペンクラブ「電子文藝館」では、詩集『萱草に寄す』を読むことができます。  
    12.  立原道造(たちはら・みちぞう) 詩人。東京生れ。東大建築科卒。「四季」同人。堀辰雄やリルケに傾倒。繊細・純粋で、音楽的な抒情詩を書いた。詩集「萱草わすれぐさに寄す」「暁と夕の詩」。(1914~1939)(『広辞苑』第6版による。)  
    13.   資料22に「立原道造の友への手紙(田中一三あて)」があります。  
14.  『KARUIZAWA TALIESIN(軽井沢タリアセン)』というサイトで、「軽井沢高原文庫」の情報を見ることができます。
15.  『軽井沢高原文庫』のホームページがあります。
    16.  講談社文庫に小川和佑著『立原道造の世界』があります。  

      



  
 

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