《問題の解答》
問題 次の文の空所に、「必要」「十分」「必要十分」のいずれかを入れなさい。
1.哺乳類であることは、犬であるための(
必要 )条件である。
2.4つの角が直角であることは、四辺形が長方形であるための(
必要十分 )
条件である。
3.日本人であることは、人間であるための(
十分 )条件である。
4.長方形であることは、正方形であるための( 必要
)条件である。
5.X=1であることは、Xの2乗が1であるための(
十分 )条件である。
6.自然数 n
が偶数であることは、n
が4の倍数であるための( 必要
)条件
である。
出題者から:
皆さんはきっと、この問題を、高校1年生の時に習ったでしょう。
それが今でも全部すらすらできたとしたら、たいしたものです。
できなかった人は、それが普通です。決してがっかりする必要はありません。
でも、できなかった場合は、なぜできなかったのかを、考えてみることをお勧
めします。そこには、おもしろい何かが潜んでいそうに思われますから。
念のため、必要条件・十分条件・必要十分条件の一応の説明を書いておきます。
今、
P ならば Q である。
が成り立つとき、P は Q であるための十分条件、Q
は P であるための必要条件
である、と言います。
そして、P
ならば Q で、かつ、Q ならば P であるとき、P を Q の必要十分条件
であると言います。このとき、Q
も P の必要十分条件です。
つまり、P と Q とが必要十分条件であるとき、P
と Q とは論理的には全く同じ
ことで、P と Q とは同値である、と言います。
こうなると、なんだかもやもやして来ますね。具体的な例に当てはめて考えてみま
しょう。
高校時代には、きっと矢印を使って、《「P
ならば Q である」を、「P → Q」と表
して、矢印の先が「必要条件」、矢印の反対側が「十分条件」だ》と教えられたと
思います。
例を挙げてみましょう。
犬ならば哺乳類である。
という文の場合、「犬
→ 哺乳類」となりますから、「犬」は「哺乳類」であるた
めの十分条件、「哺乳類」は「犬」であるための必要条件、というわけです。
(犬は全部哺乳類ですが、哺乳類なら犬だ、とはいえませんから、「犬
← 哺乳類」
とはなりません。)
哺乳類であることは、犬であるための( )条件である。
という問題の場合、「哺乳類である」←「犬である」となりますから、「哺乳類で
ある」ことは、「犬である」ための「必要条件」である、というふうに答えればい
いのだ、ということになります。
次の例を考えてみましょう。
n =±1
であることは、n の2乗
=1 であるための( )条件である。
という問題の場合、「n =±1」
であれば、必ず「n の2乗
=1」である(「n
=±1」→「n の2乗
=1」)し、「n の2乗
=1」であれば、必ず「n =±1」
でもある(「n =±1」←「n の2乗
=1」)ので、
n =±1
であることは、n の2乗
=1 であるための(必要十分)条件である。
ということになります。つまり、矢印を使うと、「n =±1」⇔「n の2乗
=1」と
いうことです。
それにしても、何となくもやもやした感じが残るのは、なぜなのでしょうか。矢印で
解答することを覚えていた人は、簡単に答えたでしょうが、これを文として読んで、
論理的に考えて答えようとした人は、恐らくまごついたのではないでしょうか。
ここに取り上げた6題の問題を、もしうまく解けない人がいるとしたら(戸惑う人が
多い、と私は想像するのですが)、それはなぜなのでしょうか。日本語の文なのに、
それも大して複雑な内容の文でもないのに、戸惑う人が多いのは、実に妙なことだ、
と私は常々思っているものですから、ここにこの問題を取り上げてみたのです。
必要条件、十分条件、必要十分条件についての問題のご感想は、いかがですか。
※ 『関西学院大学』のホームページに『放課後の数学入門』があり、そこに「数学A」のページ
があって、その中に「§1数と式 10 必要条件と十分条件(1) 11 必要条件と十分条件(2)」
があります。興味のある方はどうぞご覧ください。
(おまけ) 数学をやった友人が、それでは次の問題はどうか、と言ってきました。
X
の2乗 > 1 は、X > 0 であるための何条件か。
こんな問題を出されると、頭が混乱してしまって、 「X
の2乗 が 1よりも大きい」ことが
「X が正である」ための……、何だって?と、何が何だか分からなくなってしまいます。
しかし、これは数学の問題だから、できなくてもいい(?)のですが、日本語で書かれて
いる普通の日本の文章を読んで、なおかつ、「必要条件」「十分条件」が分からない、判
断できないとしたら、ちょっと何かがおかしくないかな、と思うので、こんなことを取り上げ
て書いてみたという次第です。
因みに、上の問題の答えは、『「必要条件」でも「十分条件」でも「必要十分条件」でも
ない。つまり、何条件でもない。』だそうです。
「X
の2乗 > 1 であるならば、X > 0である」「X > 0であるならば、X
の2乗 > 1
である」という命題が、ともに偽(ぎ)であるから、「必要条件」「十分条件」は関係ない、
問題にならない、ということのようです。意地が悪い!
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