円周の長さは、どうすれば計れるのでしょうか。昔の人は、どうやって計ったのでしょう。今なら、円の半径または直径が分かれば、すぐに円周の長さが出せますが、それはπ(パイ)という円周率が分かっているからです。
では、円周率とは、どういうものでしょうか。
問題 円周率とは何ですか。簡単に説明してみてください。
──あらためてそう言われると、とっさには説明しづらいのではないでしょうか。
そこで、国語辞典で「円周率」を引いてみました。すると、次のように出ています。
〇円周率=円周の長さとその直径との比、または円の面積と半径の平方との比。近似値は
3.14159 。ギリシア文字π(パイ)で表す。(『広辞苑』第6版)
〇円周率=円周の直径に対する比の値。記号π(パイ)で表す。その値は
3.141592…で超越数であることがリンデマンによって証明された。(『大辞林』第2版)
〇円周率=円周の、直径に対する比。記号はπ(パイ)で表し、値は
3.14159…で、ふつう
3.14 として計算する。(『大辞泉 増補・新装版(デジタル大辞泉)』)
〇円周率=円周の、直径に対する比。約3.1416。記号π(パイ)。
(『新明解国語辞典 第3版』)
〇円周率=〔数〕直径に対する円周の長さの割合。約3.1416。記号
π(パイ)(『旺文社国語辞典』1986 )
ついでに、ここに出てくる「比」も引いてみました。
〇比=同種類の二つの量A、Bがあって、Bが零でない時に、AがBの何倍にあたるかという関係をAのBに対する比といい、これをA:Bと書く。A
/ Bをこの比の値(あたい)という。「─を求める」(『広辞苑』第6版)
〇比=〔専門〕数
a、bを同種の量とするとき、a
がb
の何倍かあるいは何分のいくつに当たるか、という関係を
a の
b に対する比といい、a:b
と書く。a
/ b をこの比の値という。(『大辞林』第2版)
〇比=二つのものをくらべた割合。「比重・比熱・比率・比例
/ 単比・等比」(『大辞泉 増補・新装版(デジタル大辞泉)』)
〇比=〔数学で〕同種類の二つの量の間で、一方が他の幾倍に当たるかという関係(を表わす式)。「AとBの─を求める:─例・等─級数」(『新明解国語辞典 第3版』)
〇比=同種の二つの数量の間の関係。割合。「比率・比重・比例」(『旺文社国語辞典』1986 )
つまり、わかりやすく言うと、円周率とは、「円周の長さが、その直径の何倍に当たるか、という関係」のことです。
ですから、円周率がおよそ
3.14 であるということは、「円周の長さは、円の直径のおよそ 3.14 倍である」ということになります。
円周の長さは、円の直径×円周率ということですから、円の半径をrとすれば、「円周の長さ=2πr」となるわけで、このことは、円の面積の公式「円の面積=πr^2(「r^2」はrの2乗の意)」とともに、中学校で習ったことだと思います。
西欧語には円周率に相当する術語はなく、単に「数π」(the
number π)とか、「円周と直径の比」と言わねばならないのだそうです。ドイツでは、16世紀にπの値を小数点以下35桁まで求めた数学者ルドルフに因んで、πのことを「ルドルフの数」(die
Ludolphsche Zahl)とも言うそうです。試みに手元の和英辞典で「円周率」をひいてみると、the
ratio of the circumference of circle to its diameter と出ていました(旺文社の『エッセンシャル和英辞典』昭和27年初版発行)。
○
円周率を、なぜπで表すのか
さきほど、円周率はギリシア文字πで表すと出ていましたが、なぜπが円周率を表す記号として使われるのでしょうか。
それは、「周」を意味するギリシア語がπεριμετρo
ς
(perimetros
ペリメートロス)というので、その頭文字を取って円周率を表す記号にしたものだからだそうです。つまり、円周率を表すπは、「周」を意味するギリシア語περιμετρo
ς
の頭文字というわけです。
πを初めて円周率を表す記号として用いたのは、イギリスの数学者ウィリアム・ジョーンズ(1675~1749)で、1706年のことだそうですが、πが一般に広く用いられるようになったのは、スイスの大数学者レオンハルト・オイラー(1707~1783)が1739年に用いてからだそうで、そのため、最初にπを用いたのはオイラーだとする本も多いということです。
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円周率の求め方
さて、円周の長さを求めるのに欠かせない円周率は、どのように計算して出したのでしょうか。
πの近似値としては3が古くから用いられ、古代エジプトでは(4/3)^4も用いられていたといいますが、古代ギリシアの数学者・物理学者アルキメデス
(前287頃~前212)は、円に内接および外接する正6角形から始めて、正96角形の周を計算して、
3+10/71<π<3+1/7
を得たそうです。(πという記号は、もちろん当時はまだ使われていませんでした。)これを小数に直してみると3.1408…<π<3.1428…となり、π≒3.14
という値が得られています。今から2,200 年以上も前に 3.14 という値を得ていたのですから、たいしたものです。
アルキメデスがどのように円周の長さを計算したのかを簡単に述べることは難しいのでここでは省略しますが、円に内接する、そして外接する二つの正多角形の角数を増やしていけば、正多角形の周は次第に円周に近くなる、という考えによって計算していったわけです。(つまり、円に内接する正n角形と円に外接する正n角形の角数nをどんどん増やしていけば、正n角形の周は限りなく円周に近くなる、と考えたわけです。)
アルキメデス以後、多角形を使ってπを計算した人は多く、例えば、中国・南北朝時代末期(紀元500年頃)の数学者祖沖之(そ・ちゅうし)(429~500)は、
3.1415926
<π< 3.1415927
を得、ドイツの数学者ルドルフ(1540~1610)は、十数年をかけて小数点以下35桁まで計算し、その結果を墓石に刻ませたそうです。わが国では、江戸時代の和算の創始者・関孝和(1640頃~1708)の直弟子・建部賢弘(たけべ・かたひろ、1664~1739)が、小数点以下41位まで正確なπの値を求めたといいます。
アルキメデス以後、多角形の角数を限りなく増やして円周に近づけるというやり方でπの値を求めることが行われたわけですが、16世紀のフランスの数学者ヴィエト(1540~1603)が、πを表す公式を初めて発見したそうです。17世紀に入って微積分が発見されてからは、πを定積分に結びつける式が得られ、これらを用いて、πを無限級数の和、あるいは種々の形の極限値として表示する式が得られ、πの近似値も精密に計算できるようになったそうです。その後、電子計算機の発達によって多くの桁数が得られ、現在では、スーパーコンピューターによって、約1兆2400億桁まで計算されているそうです。
※
ヴィエト(1540~1603)が発見したπを表す公式については、『京都大学数理解析研究所』のホームページにある、大浦拓哉先生の「円周率の公式と計算法」をご覧ください。(2013年7月29日付記)
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円周率
ここで、『国民百科事典 2』(平凡社、1976年10月10日初版第1刷発行)によって、円周率について少し詳しく見ておくことにしましょう。(更に詳しい「円周率」「円周率の歴史」については、備考4に挙げたフリー百科事典『ウィキペディア』のそれぞれの項が参考になります。)
任意の円の直径と円周の長さをそれぞれd、pとすると、p/dの値は一定である。この値を円周率といい、記号πで表す。円周率をはじめてπで表したのはジョーンズ
William Jones (1675~1749)で1706年のことである。しかしこれが普遍的に用いられるようになったのはオイラーが39年に用いてからである。古代では最初π=3を用いたようだが、前2000年ころ、バビロニアではπ=3+1/8 が、またエジプトではπ=4×(8/9)^2が使用されたという記録が残っている。πは超越数(有理数を係数とするどんな代数方程式をも満足しない数)と呼ばれる無理数の一種で、その値はπ=3.141592653……である。通常近似値としては、小数では
3.14、または 3.1416 が、また分数では 22/7、または 355/113 が用いられる。アルキメデスは、円に内接、または外接する正96角形の周を計算して、3+10/71<π<3+1/7
を得た。オランダのルドルフ・ファン・ケーレン Ludolph van Ceulen(1540~1610)も同様な方法によりπの値を小数点以下35けたまで正しく計算したという。ドイツでπのことをルドルフの数とも呼ぶのはこのためである。微分積分学の研究から、無限級数を用いてπを表すことができるようになってから、πの計算は飛躍的に容易になった。
この方法でマチンJohn Machin (1680~1752)は1706年に小数点以下100けたまで、シャンクスW.Shanks(1812~82)は1873年に707けたまで計算した。さらに電子計算機の発達が計算の簡易化を促進し、1967年にπの値が50万けたまで計算されたが、その所要時間は28時間10分に過ぎなかった。なおπが超越数であることは1882年にリンデマンFerdinand
Lindemann(1852~1939)によって証明された。よく用いられるπの近似式として、
π/4=1-1/3+1/5-1/7……
π^2/6=1+1/2^2+1/3^2+1/4^2……
などがある。(清宮俊雄)
(引用者注:文中の(8/9)^2、π^2、2^2、……
は、それぞれ (8/9)の2乗、πの2乗、2の2乗、…… の意で、引用者が書き改めたものです。
また、3+10/71<π<3+1/7という表記も、引用者が誤解を避ける意味で+の記号を書き加えたものです。
なお、文中に出ているルドルフ・ファン・ケーレンは、ルドルフ・ファン・コイレンとも言われます。彼はここでは「オランダのルドルフ・ファン・ケーレン」と書かれていますが、彼の生まれはドイツで、オランダのアムステルダムやライデンで過ごしたため、オランダの数学者と言われることがあるのだそうです。)
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円周率の覚え方
ところで、円周率を覚える覚え方があって、外国人の目の前で何も見ないで円周率をどんどん書いてみせると、彼らはみんなびっくりするそうです。外国には、日本語のように便利な語呂合わせによる覚え方がないからでしょう。このことは、金田一春彦先生がある本に書いておられるのを読んだ記憶があります。
円周率の最もよく知られていると思われる覚え方を、次に紹介してみましょう。
産医師、異国に向こう。産後、厄(やく)なく、産婦、み社(やしろ)に。虫、さんざん闇に鳴く。ご礼には早よ行くな。……
(注)「さんざん」というのは、「散々」で、「あちらこちらで」という意味でしょうか。
3.141592653589793238462
643383279502884197……
これで、小数点以下 39 桁まで覚えられたことになります。ただ、「ご礼には早よ行くな」というのが、前とあまりよく続かないような気もします。
この他に、「才子、異国に婿さ。子は苦なく、身ふさわし。……」(3.1415926535897932384……)という覚え方などもあるようです。
実際に何桁まで覚えている人がいるかについては、次のサイトが参考になります。原口證(あきら)さんという人は、実に10万桁まで覚えておられるということですから、なんとも驚いたことです。
「円周率πの達人 原口證(はらぐちあきら)オフィシャルウェブサイト」
○
πの値
参考までに、円周率の数字を小数点以下500桁まで書いておきましょう。
π=3.
1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510
5820974944 5923078164 0628620899 8628034825 3421170679
8214808651 3282306647 0938446095 5058223172 5359408128
4811174502 8410270193 8521105559 6446229489 5493038196
4428810975 6659334461 2847564823 3786783165 2712019091
4564856692 3460348610 4543266482 1339360726 0249141273
7245870066 0631558817 4881520920 9628292540 9171536436
7892590360 0113305305 4882046652 1384146951 9415116094
3305727036 5759591953 0921861173 8193261179 3105118548
0744623799 6274956735 1885752724 8912279381 8301194912
……
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(注) |
1. |
「世界一つまらないホームページ」というサイトに「円周率1,000,000桁」というページがあり、ここに円周率が100万桁まで示されています。 お断り:ページがなくなってしまったようですので、リンクを外しました。(2019年8月20日) |
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2. |
この文章を書くに当たって参考にさせていただいた参考書を、次に挙げておきます。
〇岩波現代文庫『πの話』(野崎昭弘著、岩波書店・2011年2月16日発行)
これは、岩波科学の本
12『πの話』(野崎昭弘著、岩波書店・1974年6月29日第1刷発行。新装版は1998年11月6日発行)を文庫化したものです。(2019年8月20日現在)
〇『π
─πの計算 アルキメデスから現代まで─』(竹之内脩・伊藤隆
著、共立出版2007年3月25日初版1刷発行) 〇『数のエッセイ』(一松信著、中央公論社・昭和47年12月25日初版発行)これは、ちくま学芸文庫に入りました。『数のエッセイ』(2007年1月10日発行)
〇『世界大百科事典
3』(平凡社、1988年3月15日初版発行) 〇『国民百科事典 2』(平凡社・1976年10月10日初版第1刷発行) |
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3. |
『円周率πについて』というホームページがあります。興味のある方はご覧下さい。πに関する様々なページへのリンクも紹介されています。 *
残念ながら、現在は見られないようです。 (2012年9月13日) |
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4. |
フリー百科事典『ウィキペディア』の「円周率」「円周率の歴史」の項には専門的な詳しい説明が出ていますので、関心のある方はご覧ください。 |
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5. |
『あっしーのペーじ』というサイトに「πのページ」があり、参考になりますのでご覧ください。 |
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6. |
2009年(平成21年)10月2日の朝日新聞朝刊の『ニュースがわからん!』というコラムに、「円周率2兆けた どう計算したの?」が出ています。
今年(2009年)の8月に、筑波大学計算科学研究センターの高橋大介准教授らが、毎秒95兆回も演算ができるスーパーコンピューター「T2K筑波システム」で2兆5769億8037万けたまで計算し、発表したものだそうです。
「東京大学の金田康正教授らと日立製作所のグループが02年に1兆けたを超える世界記録をつくったが、今回、けたがその2倍以上に伸びた」とあります。 なお、高橋大介准教授は90年代に金田研究室で腕を磨き、師の記録を更新したものだそうで、「金田さんもリベンジに意欲的だ」と記事には書いてありました。 ※
『計算科学研究センター』のサイトに、「筑波大学計算科学研究センターが円周率計算けた数世界記録を樹立」という記事が出ています。(2009年10月2日付記) *
残念ながら、現在は見られないようです。 (2012年9月13日) |
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7. |
『数のいろいろ』というサイトに、「1.円周率πについて」があって、参考になります。(2012年9月13日付記) |
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8. |
記述の誤り等について、お気づきの点をご教示いただければ幸いです。 |
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