資料685  顕浄土真実教行証文類序(教行信証「総序」) 



        顯淨土眞實敎行證文類序

  
竊以、難思弘誓度難度海大船、无㝵光明破无明闇惠日。然則、淨邦縁熟、調達闍世興逆害。淨業機彰、釋迦韋提選安養。斯乃權化仁、齊救濟苦惱群萠、世雄悲正欲惠逆謗闡提。故知、圓融至德嘉號轉惡成德正智、難信金剛信樂除疑獲證眞理也。爾者凡小易修眞敎、愚鈍易往捷徑。大聖一代敎、無如是之德海。捨穢忻淨、迷行惑信、心昏識寡、惡重鄣多、特仰如來發遣、必歸最勝直道專奉斯行、唯崇斯信。噫弘誓強縁、多生叵値眞實淨信、億劫叵獲。遇獲行信、遠慶宿縁。若也此廻覆蔽疑網、更復逕歴曠劫。誠哉、攝取不捨眞言、超世希有正法、聞思莫遲慮。爰愚禿釋親鸞、慶哉、西蕃月支聖典、東夏日域師釋、難遇今得遇、難聞已得聞。敬信眞宗敎行證、特知如來恩德深。斯以慶所聞、嘆所獲矣。

大無量壽經 眞實之敎 淨土眞宗
顯眞實敎一
顯眞實行二
顯眞實信三
顯眞實證四
顯眞佛土五
顯化身土六


【書き下し文】読み仮名は現代仮名遣いにしてありますのでご注意ください。)
 ひそかにおもんみれば 、難思(なんし)の弘誓(ぐぜい)は難度海(なんどかい)を度(ど)する大船(たいせん)、无㝵(むげ)の光明(こうみょう)は 无明(むみょう)の闇(あん)を破(は)する惠日(えにち)なり。しかればすなはち、淨邦(じょうほう)縁熟(えんじゅく)して、調達(じょうだち)(提婆達多)、闍世(じゃせ)(阿闍世)をして逆害(ぎゃくがい)を興(こう)ぜしむ。淨業(じょうごう)機(き)あらはれて、釋迦韋提(しゃかいだい)をして安養(あんよう)をえらばしめたまへり。これすなはち權化(ごんけ)の仁(にん)、ひとしく苦惱(くのう)の群萠(ぐんもう)を救濟(くさい)し、世雄(せおう)の悲(ひ)、まさしく逆謗闡提(ぎゃくほうせんだい)をめぐまんとおぼす。かるがゆへにしんぬ、圓融至德(えんゆしとく)の嘉號(かごう)は惡(あく)を轉(てん)じて德(とく)をなす正智(しょうち)、難信金剛(なんしんこんごう)の信樂(しんぎょう)は、うたがひをのぞき德*(とく)をえしむる眞理(しんり)なり。しかれば凡小(ぼんしょう)修(しゅ)しやすき眞敎(しんきょう)、愚鈍(ぐどん)ゆきやすき捷徑(せちけい)なり。大聖一代(だいしょういちだい)の敎(きょう)、この德海(とくかい)にしくなし。穢(え)をすて淨(じょう)をねがひ、行(ぎょう)にまどひ信(しん)にまどひ、心(しん)くらく識(しき)すくなく、惡(あく)おもくさはりおほきもの、ことに如來(にょらい)の發遣(はちけん)をあふぎ、かならず最勝(さいしょう)の直道(じきどう)に歸(き)して、もはらこの行(ぎょう)につかへ、たゞこの信(しん)をあがめよ。
 あゝ弘誓(ぐぜい)の強縁(ごうえん)、多生(たしょう)にもまうあひがたく、眞實(しんじち)の淨信(じょうしん)、億劫(おくごう)にもえがたし。たまたま行信(ぎょうしん)をえば、とをく宿縁(しゅうえん)をよろこべ。もしまたこのたび疑網(ぎもう)に蔽覆(ふへい)せられば、かへりてまた曠劫(こうごう)を逕歴(きょうりゃく)せん。まことなるかな、攝取不捨(しょうしゅふしゃ)の眞言(しんごん)、超世希有(ちょうせけう)の正法(しょうぼう)、聞思(もんし)して遲慮(ちりょ)することなかれ。こゝに愚禿釋(ぐとくしゃく)の親鸞(しんらん)、よろこばしきかな西蕃月氏(せいばんがちし)の聖典(しょうてん)、東夏日域(とうかじちいき)の師釋(ししゃく)、あひがたくしていまあふことをえたり、きゝがたくしてすでにきくことをえたり。眞宗(しんしゅ)の敎行證(きょうぎょうしょう)を敬信(きょうしん)して、ことに如來(にょらい)の恩德(おんとく)のふかきことをしんぬ。こゝをもてきくところをよろこび、うるところを嘆(たん)ずるなり。

大無量壽經 眞實(しんじち)の敎(きょう) 淨土眞宗
眞實(しんじち)の敎(きょう)を顯(あら)はす一
眞實(しんじち)の行(ぎょう)を顯(あら)はす二
眞實(しんじち)の信(しん)を顯(あら)はす三
眞實(しんじち)の證(しょう)を顯(あら)はす四
眞佛土(しんぶちど)を顯(あら)はす五
化身土(けしんど)を顯(あら)はす六


(注)【書き下し文】の「うたがひをのぞき德*(とく)をえしむる眞理(しんり)なり」の「德」は、漢文の本文では「證」となっています。このことについては、下の(注)4をご覧ください。


  (注) 1.  上記の「顕浄土真実教行証文類序」は、『眞本敎行信證御自釋 万延刊本延書對照』(雲村賢淳編、法蔵館・昭和61年2月10日第1刷発行)に出ている本文によりました。  (この本は昭和61年2月10日第1刷発行となっていますが、同じ本と思われるものが、昭和35年7月20日発行にあります。)

 本文についている訓点は、これを省略しました。
 句読点については、本文にはすべて句点が用いられていますが、引用者の判断で読点を用い、句読点の個所は引用者の判断によってつけてあります。

 本書は国立国会図書館デジタルコレクションに入っています。ただし、この本は「個人送信サービス利用」になりますので、読むためには利用者登録が必要です。
 →  国立国会図書館デジタルコレクション
   →『眞本敎行信證御自釋 萬延刊本延書對照
  →淨土眞實敎行證文類序」(17~18/145)

   
    2.  書き下し文の「読み仮名」は、岩波文庫の『教行信証』(金子大栄校訂、1957年10月7日第1刷発行、2003年7月25日第47刷発行)に拠りました。
 岩波文庫の『教行信証』は、「萬延二年に刊行された延書本を底本(ていほん)とし、」「漢字に附してあった萬延本の振ガナはそのままとし」た、と凡例にあります。
 
   
    3.  本文の末尾にある「嘆所獲矣」の「」の左には、「ホム」と振り仮名がついています。「褒む」(ほめる。たたえる。)の意でしょう。
 また、本文の末尾にある「大無量壽經 眞實之敎 淨土眞宗」の細字の文字(眞實之敎 淨土眞宗)は、「大無量壽經」の下に2行に分かち書きされているものです。

   
    4.  【書き下し文】の「うたがひをのぞき德*(とく)をえしむる眞理(しんり)なり」の「德」について
 
これは、上に挙げた漢文の本文に「難信金剛信樂除疑獲證眞理也」とある「除疑獲證眞理」の「證」が、書き下し文には「德」となっているという問題です。
 このことについて、大谷大学真宗総合研究所東京分室PD研究員の青柳英司氏の「顯淨土眞實敎行證文類序」(総序)という【研究レポート】があって、たいへん参考になります。

 →【研究レポート】「顯淨土眞實敎行證文類序」(総序)青柳英司

 この青柳氏のレポートは、親鸞の畢生の書である「顯淨土眞實敎行證文類」の本文に対する研究の整理と検証の成果の一部を収めた研究レポートの由です。
 この問題について青柳氏は次のように書いておられます。それを要約して紹介します。
 (青柳氏が取り上げているのは、高田専修寺本の「総序」に「難信金剛信樂除疑獲眞理也」とあるものが、西本願寺本の「総序」には「難信金剛信樂除疑獲眞理也」となっている問題です。)

 『教行信証』の古写本である高田専修寺本と西本願寺本の「総序」を比較してみると、それほど多くの違いは見られないので、現存する唯一の親鸞自筆の『教行信証』としての坂東本の「総序」も、両者とほぼ同じ形態であったと推測できる。ただ、漢字の相違点が2個所に見られ、そのうちの一つは、高田本が「證」であるのに対し西本願寺本は「德」となっているところである。
 西本願寺本は上欄に「證」と注記しているが、『淨土文類聚鈔』には「除疑獲徳之神方」という表現が見られ、また源覚書写本(1346年)を始めとする多くの延書本が「德」の字となっているので、「德」の表記を単なる誤記と言い切ることは難しい。
 この問題については、既に江戸期から言及が見られる。(同レポート、140頁を要約。)

 青柳氏は、このことについて詳しく検討された上で、初め「證」と書かれたものが、その後「德」に改訂されたものと思われる、として、「本レポートにおいても、さしあたり「除疑獲德」という表記を採用したい」と書いておられます。
 詳しい解説は、同「研究レポート」を参照してください。
 

   
    5.  教行信証の総序について
 (1)『本元寺 真宗大谷派(東本願寺)』のホームページに「本元寺 真宗大谷派(お経の解説)」があり、そこに「教行信証(総序)」についての解説があって参考になります。
 →『本元寺 真宗大谷派(東本願寺)』
  →「本元寺 真宗大谷派(お経の解説)」
   →「教行信証(総序)」

 (2)『真宗大谷派 東本願寺』のホームページに、「浄土真宗・親鸞聖人関連ワード」があり、そこに「顕浄土真実教行証文類(教行信証)」について、次のようにあります。

 親鸞聖人の主著であり、浄土真宗の根本聖典(こんぽんせいてん)で、『教行信証』と略称されています。「教巻」・「行巻」・「信巻」・「証巻」・「真仏土巻」・「化身土巻」の6巻からなっており、冒頭に総序(そうじょ)、行巻の前に別序(べつじょ)、巻末には後序(ごじょ)が置かれています。/真宗大谷派には、親鸞聖人自筆の「坂東本(ばんどうぼん)」が伝わっており、国宝に指定されています。

 →『真宗大谷派 東本願寺』
  →「顕浄土真実教行証文類(教行信証)

 またここには「親鸞聖人の生涯」のページがあり、参考になります。
 →「親鸞聖人の生涯」

   
    6.  『浄土真宗・現代語版』というサイトに、「教行信証現代語訳版の総序」があり、現代語訳が見られて参考になります。
 →『浄土真宗・現代語版』
  →「第378回 教行信証現代語訳版の総序」
   
    7.
【参考】
 (1)『web版 新纂浄土宗大辞典』に、「教行信証」の項があります。
   →『web版 新纂浄土宗大辞典』
    →「教行信証」
 (2)「教行信証」は、『SAT大正新脩大藏経テキストデータベース』にも入っています。
   →『SAT大正新脩大藏経テキストデータベース』
 (3)『web版 新纂浄土宗大辞典』に「教行信証」の項があって参考になります。
   →『web版 新纂浄土宗大辞典』「教行信証」   
   






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