「いまだに」の漢字をどう書くかというのは、例えば、「その地方では、いまだにそのような風習が行われている」や「先の台風で崩れて不通になった裏山の崖の道路が、いまだに修復されていない」という文の「いまだに」に漢字を当てる場合、その漢字はどうなるだろうか、という問題です。この件については、いろいろな意見があって、話はそう簡単ではないようです。
多分、年配の多くの人は「未だに」と書いて、「今だに」と書くのは誤りだ、と考えるでしょう。
その場合、「未」という漢字は、漢文では「未(いま)だ~ず」という形で用いられ、本来否定の意味を含んでいるのだから、「未だに」は否定文で用いるべきで、「その地方では、未だにそのような風習が行われている」というような使い方はおかしい、と考える人もいるだろうと思います。
つまり、「未だに」は否定文・肯定文のどちらに使ってもよい、と考える人に対して、「未だに」は否定文に使うべきで、肯定文には使うべきではない、と考える人がいるということです。
私は肯定文にも否定文にも「未だに」と使い、「今だに」は使っていません。「今だに」は誤用と考えているのです。しかし、「未」は本来否定の意味を含んでいるのだから肯定文に使うのはおかしいのではないか、と言われれば、確かにそうも思えて、いささか当惑せざるを得ません。
また、肯定文の場合、「未だに」ではなく、「今だに」と使うのがふさわしい、と言われれば、たしかにそうかもしれない、という気がします。
辞書では「未だに」が正しく、「今だに」は誤用としてある本が多いようですが、最近、かの有名な『広辞苑』が第7版で次のように書いていることが注目されているようです。
いまだに【未だに】《副》今になっても。今もって。まだ。「─解決していない」▽「今だに」とも書く。露伴、観画談「其話を今だに忘れてゐないが」
ここでは、はっきり「「今だに」とも書く」と言い切っているのです。
言葉の成り立ちとしては、未だ‐に(副詞「未だ」+助詞「に」⇒ 副詞「未だに」)、今‐だに(副詞「今」+助詞「だに」⇒
副詞「今だに」)ということになると思われますが、なかなか面倒な言葉になってしまったなという思いです。
結局、「未だに」ではなく「未だ」と書くか(その場合は多くは否定文になる)、「いまだに」と書きたい場合は、(新聞社がそうしているように)「いまだに」と仮名で書くことにすればいい、ということでしょうか。
〇
「いまだに」の漢字についての考え方の種類
最後に、「いまだに」の漢字の書き方についての考え方をまとめてみました。
1.漢字は「未」。「今だに」は誤り。なお、漢字「未」の本来の意味から考えて、否定文に用いるべきで、肯定文には用いない。未だに~ない。
2.漢字は「未」。「今だに」は誤り。「未だに」は、否定文・肯定文のどちらに用いてもよい。
3.漢字は「未」・「今」のどちらを用いてもよい。「未だに」「今だに」の両方の表記を認める。否定文・肯定文のどちらに用いてもよい。
4.否定文には「未だに」、肯定文には「今だに」と書く。
5.「いまだに」は、現在は「今だに」と書くべきである。「未だに」の表記は古い。
6.「いまだに」は、仮名で「いまだに」と書いたほうがよい。
〇私の考え
私は今までは2の考え方でした。1と4の考え方をどうとらえるべきか少し迷いますが、ただ、漢字の「未」が「まだ~でない」の意味をもっているので、「未(いま)だ」なら否定文にすべきだけれども、「未だに」なら、肯定形に使ってもいいとも考えられます。
ということで、やはり2の考え方を執っておきたいと思います。
参考:
古くは「今だに」という表記が用いられていたそうですから、その表記を誤りだとは言えないのかもしれませんが、現在は「今だに」という表記は誤りだと考える人たちがいるので、書くのは避けたほうがいい、と言われています。
確かに今は「いまだに」の表記は過渡期にあるのかもしれません。そのうち、「今だに」という表記がごく普通に用いられるようになると思われます。(2024年9月2日)
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