資料660 「日本挽歌」の序 (万葉集巻五)




       「日本挽歌」の序

    蓋聞、四生起滅、方夢皆空、三界漂流、喩環不息。所以、維摩大士在乎方丈、有懷染疾之患、釋迦能仁、坐於雙林、無免泥洹之苦。故知、二聖至極、不能拂力負之尋至、三千世界、誰能逃黑闇之捜來。二鼠競走、而度目之鳥旦飛、四蛇爭侵、而過隙之駒夕走。嗟乎痛哉。紅顔共三從長逝、素質与四德永滅。何圖偕老違於要期、獨飛生於半路。蘭室屏風徒張、斷腸之哀弥痛、枕頭明鏡空懸、染筠之涙逾落。泉門一掩、無由再見。嗚呼哀哉。  
  愛河波浪已先滅、苦海煩惱亦無結。從來猒離此穢土。本願託生彼淨刹。    
       


  (注) 1.  上記の本文は、日本古典文学大系5『萬葉集 二』(高木市之助・五味智英・大野晋 校注、岩波書店 )によりました。ただし、返り点は省略しました。
 大系本には勿論、書き下し文や頭注・補注などがついています。

 「794  日本挽歌一首」は、巻五の初めに出ています。頭注に、「前の詩文に対して、日本語で作った挽歌であるという意」とあります。
   
    2.  中西進著『万葉集 全訳注原文付(一)』(講談社文庫)に、「日本挽歌」の序は「(大伴)旅人の妻の死に対する悼亡文と悼亡詩」とあります。作者は山上憶良です。
   
    3.  ここに、「二鼠競走、而度目之鳥旦飛、四蛇爭侵、而過隙之駒夕走」とあることが、注目されます。
 参考:
 → 資料650 仏説譬喩経(『大正新脩大蔵経』第4巻による)
 →   資料658「賓頭盧為優陀延王説法経」
 →   資料659『衆経撰雑譬喩』巻上第八
   






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