資料563 「登筑波山歌一首」高橋虫麻呂(万葉集巻九)


        

     登筑波山謌一首 并短歌     高橋蟲麻呂
  
草枕 客之憂乎 名草漏 事毛有哉跡 筑波嶺尒 登而見者 尾花落 師付之田井尒 鴈泣毛 寒來喧奴 新治乃 鳥羽能淡海毛 秋風尒 白浪立奴 筑波嶺乃 吉久乎見者 長氣尒 念積來之 憂者息沼
     反 謌
筑波嶺乃 須蘇廻乃田井尒 秋田苅 妹許將遣 黄葉手折奈
 

   筑波山に登る歌一首 短歌を并せたり  高橋蟲麻呂
  
草枕 旅の憂(うれ)へを 慰(なぐさ)もる 事もあるかと 筑波嶺に登りて見れば 尾花ちる 師付(しづく)の田居に 雁(かり)がねも 寒く來鳴きぬ 新治(にひばり)の 鳥羽(とば)の淡海(あふみ)も 秋風に 白波立ちぬ 筑波嶺(つくはね)の 良(よ)けくを見れば 長き日(け)に 思ひ積み來(こ)し 憂(うれ)へは息(や)みぬ
     反 歌
筑波嶺の 裾廻(すそみ)の田井に 秋田刈る 妹(いも)がり遣らむ 黄葉(もみち)手折(たを)らな
   


  (注) 1.  本文は、日本古典文学大系5『萬葉集 二』(高木市之助・五味智英・大野 晋 校注、岩波書店・昭和34年9月5日第1刷発行 )によりました。 (『国歌大観』の番号は、17571758
 ただし、訓み下し文の「よけく」「長きけに」を、新日本古典文学大系本によって、「良(よ)けく」「長き日(け)に」としてあります。       
   
    2.  底本については、凡例に、「本書は竹柏園複製西本願寺本萬葉集を底本とした」、「桂本・天治本・金沢本・元暦校本・藍紙本・尼崎本・伝壬生隆祐筆本・ 嘉暦伝承本・紀州本・類聚古集・古葉略類聚鈔など現存古写本の複製及び 校本萬葉集によって、新たに校訂を加えた」とあります。
 上記の歌に関するものは、次の通り。
 藍紙本・類聚古集によって
  底本「有武跡」→「有哉跡」  
   
    3.  「筑波(つくは)」の「は」は、奈良時代には清音とのことです。    
    4.  作者の高橋虫麻呂(高橋虫麿とも)は、奈良時代初期の歌人。養老年間、常陸国守だった藤原宇合の部下として常陸国風土記の編纂に従ったと言われる。天平4年(732)宇合が節度使になった時贈った長短歌(巻六、971・972)のほかは、「高橋連虫麿歌集に出づ」(または「…歌の中に出づ」)として万葉集に収められている歌が、彼の作品である。伝説と旅に関する歌が多く、長歌を得意とした。(日本古典文学大系5『萬葉集二』巻九の頭注(421頁)によりました。ただし、「(高橋虫麿とも)」は引用者が補いました。)    
    5.  フリー百科事典『ウィキペディア』に、「高橋虫麻呂」の項があります。
  フリー百科事典『ウィキペディア』
   → 「高橋虫麻呂」
   
    6.  『古事記正解』というサイトがあり、そこに「『萬葉集』テキスト」があって、万葉集の全巻の原文と読み下し文とを見ることができます。
  残念ながら現在は見られないようです。(2023年8月19日)        
   
    7.  山口大学教育学部表現情報処理コースの作成による 『万葉集検索』というサイトがあり、そこで萬葉集の語句による本文検索ができて便利です。
 ということでしたが、現在、このサイトが利用できない状態にあります。その代わりに、『万葉集検索(山口大)の代用品 web version 文責 浜田裕幸』というサイトがあって助かります。
 →『万葉集検索(山口大)の代用品 web version 文責 浜田裕幸』
   
    8.   群馬県立女子大学名誉教授・北川和秀先生の『北川研究室』というサイトに、「万葉集年表」「万葉集諸本(写本・版本)一覧」「万葉集の主な注釈書一覧」などがあって参考になります。    
    9.  『壺齋閑話』(今は『続壺齋閑話』)というサイトがあり、そこに「古典を読む」があって、この歌は取り上げてありませんが、他の歌の評釈(万葉集を読む)があって参考になります。    
 『壺齋閑話』
   →『続壺齋閑話』 
   →「万葉集を読む」
   






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