| 
    | 
 ロシア民謡「ステンカ・ラージン」の訳詞は、「久遠にとどろくボルガの流れ」で始まる與田凖一氏のものが有名ですが、その訳詞の文言は本によって表記が微妙に異なっています。そこで、與田氏自身が示された訳詞をここに引用しようと思ったのですが、考えてみると、この訳詞はまだ著作権が切れていません。そこで、訳詞の全文を示すことはやめにして、著作権に触れない程度に與田氏自身が示された訳詞に触れたいと思います。  | 
    |  
| 
    | 
    | 
    |   
 與田凖一訳詞「ステンカ・ラージン」の初出は、『新撰歌曲集 第五巻』(東京音楽書院、昭和11年5月31日発行)。ここには、音符に平仮名と片仮名で歌詞が当ててあるだけで、漢字を当てた歌詞は出ていません。題は「ステンカ・ラジーン」となっていますが、これは誤植なのか、誤植ではなく後に「ステンカ・ラージン」と改めたのかは分かりません。        *  Stenka Rasin  ステンカ・ラジーン 細谷一郎編曲 RUSSIAN FORK SONG 與田凖一譯詞 
  
 訳詞は、講談社文庫『日本の唱歌〔中〕』大正・昭和篇(金田一春彦・安西愛子編、昭和54年7月15日第1刷発行)に掲げてあるものとの違いで示します。 
 『新撰歌曲集 第五巻』にある訳詞の平仮名と、この文庫の歌詞をすべて平仮名で書いたとして、その歌詞との違いは次のようです。   『日本の唱歌〔中〕』  『新撰歌曲集 第五巻』 (第1節) ボルガ         ヴォルガ     ステンカ・ラージン   ステンカラジィン (第4節)そのかみかえらず   そのかみかへらず       ボルガ         ヴォルガ     ステンカ・ラージン   ステンカラジィン
         *
  
 さて、與田凖一氏が漢字かな交じりでお書きになった訳詞が、講談社文庫『日本の唱歌〔中〕』大正・昭和篇(金田一春彦・安西愛子編、昭和54年7月15日第1刷発行)に掲げてあります。 
 講談社文庫の歌詞は、編者の金田一春彦氏が『日本の唱歌〔中〕』を編集するにあたり、訳詞者の與田凖一氏にその歌詞を問い合わせたことに対しての與田氏の返信(『青い鳥・赤い鳥』所収の「金田一春彦氏への手紙」)に依っているからです。 
 ただし厳密に言うと、與田凖一氏が記されたものとの間に僅かな違いがあり、その違いは次の通りです。注:括弧内は振り仮名です。     講談社文庫『日本の唱歌〔中〕』 手紙の與田凖一氏の訳詞  (三番) 飢(う)ゆるはわれら   飢ゆるは われら      (手紙には、ルビなし。「飢ゆるは」の次に1字空けがある。)  (四番) 眉根(まゆね)ぞかなし   眉根ぞ かなし 
    (手紙には、ルビなし。「眉根ぞ」の次に1字空けがある。)  
  
 與田凖一氏が漢字かな交じりでお書きになった訳詞というのは、上に記したように、與田凖一著『青い鳥・赤い鳥』(講談社、昭和55年4月10日発行)に収録されている「金田一春彦氏への手紙」(昭和54年5月23日)に書かれているものです。 
 この手紙には、講談社文庫『日本の唱歌〔中〕』に金田一氏がお書きになっている「作曲家細谷一郎氏がシャリアピン吹込みのレコードから採譜し、英訳の詞を与田氏のところに持参し、日本語訳を依頼してきた」こと、「第二節四行め「うたげか」の「か」は、疑問と詠嘆の意をこめたもの」であり、「「が」と書かれているものもあるが、それは間違いである」ことなどが書かれています。          *   
というわけで、與田凖一氏の「ステンカ・ラージン」の訳詞は、講談社文庫の『日本の唱歌〔中〕』を見ていただきたい、ということにいたします。 
 (厳密に言うと、上に挙げた二か所を手直しすれば、與田氏が示された通りの訳詞になるということです。)  |