資料492 形容詞「すごい」の活用について



        形容詞「すごい」の活用について
 
      
現在の私たちの生活において、形容詞の「すごい」が妙な使われ方をしている。
      例えば、かなり年配の人でも、「今日は、すごい暑かった」とか、「すごいきれい(綺麗)だ」
      「すごいうれしい」「すごい恐(こわ)い話を聞いた」などと言っている。
      いつごろからこういう言い方がなされるようになったのだろうか、昭和の終わり頃からであ
      ろうか。
      そこで、現在使われている形容詞「すごい」について、少し考えてみることにした。
                                                      (2014年6月1日)
       

 

 現代日本語の標準的な形容詞の活用は、次のようになっている。「赤い」を例にあげると、

 現代日本語の標準的な形容詞の活用表  
 

  基本形

 語幹

 

 未然形

 連用形

 終止形

 連体形

 仮定形

 命令形

 赤 い

 あか

 

 かろ

 かっ
  く

  い

  い

 けれ

  ○

  未然形「─かろ」は、助動詞「う」に続く。
  連用形「─かっ」は、助動詞「た」に続く。
  連用形「─く」は、
文を中止したり、用言に続いたりする。
  なお、連用形が「ございます」に続くときは、ここには出してないが「─う」という
 形になる。
 
  終止形は、文の終止に用いられる。
  連体形は、主に体言に続く。
  仮定形は、「ば」に続いて、仮定の意味を表す。
  口語の形容詞に、命令の意味を表す命令形はない。時に、文語的な「─かれ」が用い
 られることがある。


 この表に合わせて「すごい」という形容詞の活用表を作ってみると、次のようになる。

 形容詞「すごい」の標準的な活用表

  基本形

 語幹

 

 未然形

 連用形

 終止形

 連体形

 仮定形

 命令形

 すごい

 すご

 

 かろ

 かっ
  く

  い

  い

 けれ

  ○


 この活用表にしたがえば、
「今日は、すごい暑かった」、「すごいきれい(綺麗)だ」、「すごいうれしい」、「すごい恐(こわ)い話を聞いた」という言い方における「すごい」は、用言に続く形であるから、連用形の「すごく」となるはずで、
 「今日は、すごく暑かった」
 「すごくきれい(綺麗)だ」
 「すごくうれしい」
 「すごく恐
(こわ)い話を聞いた」
となるところであり、これが本来の、正しい言い方である。
 (ここの「暑かっ」は、形容詞「暑い」の連用形、「きれい(綺麗)だ」は、形容動詞「きれい(綺麗)だ」の終止形、「うれしい」は形容詞「うれしい」の終止形、「恐(こわ)い」は、形容詞「恐(こわ)い」の連体形である。)

    * * * * * * * *

 さて、いよいよ本題であるが、現在われわれの周囲で聞かれる形容詞「すごい」の活用表は、次のようになると思われる。

 現在ひろく使われている形容詞「すごい」の活用表

  基本形

 語幹

 

 未然形

 連用形

 終止形

 連体形

 仮定形

 命令形

 すごい

 すご

 

 かろ

 かっ
  い

  い

  い

 けれ

  ○ 

  (標準的な活用表の連用形「く」が、「い」となっている。)


 ところで、「
すごい暑かった」、「すごいきれい(綺麗)だ」、「すごいうれしい」などと言っている人が、はたして「すごかろう」とか「すごければ」などと現実に言っているかどうかは不明である。

 だとすれば、この使い方の「すごい」は、形容詞「すごい」の連用形「すごい」と見るのでなく、単独に、副詞と見たほうがいいということになるかもしれない。

 

 実際に、この種の「すごい」(標準的には「すごく」)を副詞と見る考え方がある。たとえば、三省堂の『大辞林』には、次のように出ている。

 すごく 【凄く】
 (副詞)〔形容詞「すごい」の連用形から〕
程度がはなはなだしいさま。大変に。大層。非常に。主に会話で用いられる。「─速い」「朝晩─冷える」「─酔っぱらう」〔近年、くだけた言い方で「すごく」の代わりに「すごいでっかい」「すごいきれいだ」などと言う場合があるが、標準的でないとされる。〕

 因みに、岩波書店の『広辞苑』(第6版)では、副詞の「すごく」は項目としてはまだ取り上げてない。また、この「標準的でない言い方」についても触れられていない。
 大修館書店の『明鏡国語辞典』(初版)には、「すごい(凄い)」の項に「─・く大きな家」という例があげてあって、〔語法〕として、<話し言葉では、「すごい」のままで、「すごく」同様、連用修飾に使われることがある。「─悔しいよう」「お母さん、─怒ってたよ」>としてある。

 『大辞林』には、「すごいでっかい」「すごいきれいだ」などと言う言い方は「標準的でないとされる」と書いてあるが、標準的でないこの言い方が、現在頻繁に用いられていることは、周知の事実と言っていいと思う。

 将来、「すごくでっかい」「すごくきれいだ」と言う人がいなくなって、誰もが「すごいでっかい」「すごいきれいだ」と言うようになってしまった時には(はたしてそうなるだろうか?)、活用表も書き換えられて、「すごいでっかい」「すごいきれいだ」という言い方が標準的な言い方とされるようになるのであろうか。


    * * * * * * * *

 「すごいでっかい」「すごいきれいだ」と言っている人に向かって、<「すごいでっかい」「すごいきれいだ」ではない、「すごくでっかい」「すごくきれいだ」と言うべきだ>と今更声高に言ってみても、もはやどうにもならない状況に立ち至っている。
 なぜ、こういう、普通に考えれば奇妙な言い方がこれほどまでに一般化してしまったのであろうか。また、これは一時的な現象で、やがてはもとの標準的な言い方に戻っていくのであろうか。

 

 

 

  (注) 1.  上記の「形容詞「すごい」の活用について」は、上に名前をあげた辞書のほかにも、いくつかの辞書を参考に記述させていただきました。    
    2.  この「すごい」の使われ方については、既に専門家によって詳しい考察がなされていると思いますが、不勉強でここではそれらを見ずに書いていますので、そのことをお断りしておかねばなりません。(2014年6月1日)    
    3.  ネット上に、こんな質問が出ていました。
  1.すごいショックだった。 
  2.すごくショックだった。
 どちらが正しいですか?

〔考察〕1の場合は、形容詞「すごい」の連体形「すごい」が名詞「ショック」を修飾している形であり、2の場合は、形容詞「すごい」の連用形「すごく」が形容動詞「ショックだ」の連用形「ショックだっ」を修飾している形だと考えられます。
 ということは、どちらも文法的には正しい、ということになるでしょう。
                  (2024年5月21日)


 
   







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