資料407 和氏第十三(『韓非子』より)

        
 

 

         和氏第十三           『韓非子』   

楚人和氏得玉璞楚山中奉而獻之厲王厲王使玊人相之玊人曰石也王以和爲誑而刖其左足及厲王薨武王即位和又奉其璞而獻之武王武王使玊人相之又曰石也王又以和爲誑而刖其右足武王薨文王即位和乃抱其璞而哭於楚山之下三日三夜涙盡而繼之以血王聞之使人問其故曰天下之刖者多矣子奚哭之悲也和曰吾非悲刖也悲夫寶玉而題之以石貞士而名之以誑此吾所以悲也王乃使玊人理其璞而得寶焉遂命曰和氏之璧夫珠玉人主之所急也和雖獻璞而未美未爲主之害也然猶兩足斬而寶乃論論寶若此其難也今人主之於法術也未必和璧之急也而禁羣臣士民之私邪然則有道者之不僇也特帝王之璞未獻耳主用術則大臣不得擅斷近習不敢賣重官行法則浮萌趨於耕農而游士危於戰陳即法術者乃羣臣士民之所禍也人主非能倍大臣之議越民萌之誹獨周乎道言也則法術之士雖至死亡道必不論矣昔者呉起敎楚悼王以楚國之俗曰大臣太重封君太衆若此則上偪主而下虐民此貧國弱兵之道也不如使封君之子孫三世而收爵祿纔減百吏之祿秩損不急之枝官以奉選練之士悼王行之期年而薨矣呉起枝解於楚商君敎秦孝公以連什伍設告坐之過燔詩書而明法令塞私門之請而遂公家之勞禁游宦之民而顯耕戰之士孝公行之主以尊安國以富強八年而薨商君車裂於秦楚不用呉起而削亂秦行商君法而富強二子之言也已當矣然而枝解呉起而車裂商君者何也大臣苦法而細民惡治也當今之世大臣貪重細民安亂甚於秦楚之俗而人主無悼王孝公之聽則法術之士安能蒙二子之危也而明己之法術哉此世所以亂無霸王也  

 

 

 

 


 
   (注) 1. 「和氏第十三(『韓非子』より)」の本文は、新釈漢文大系11『韓非子 上』(竹内照夫著、
         明治書院・昭和35年12月25日初版発行、昭和45年10月5日14版発行)によりました。
         ただし、返り点・句読点・改行(段落分け)は省略しました。
        2. 「和氏」は、「カシ
(歴史的仮名遣いでは「クワシ」)」と読みます。「和」を、漢音で読んでいるか
         らです。
              和……呉音・ワ、 唐音・オ(ヲ)、 漢音・カ(クワ)
                   
(『改訂新版 漢字源』 学習研究社、2002年による。)
        3. 玉の細工人について、『韓非子 上』の語釈に、「玉人  たまつくり。正字としては、たまは
         玉、たまつくりは玊であるが、便宜上ともに玉字にしておく」とありますが、ここでは、玉人の
         場合は「玊人」
(キュウジン・(キウジン))と書き直してあることを、お断りしておきます。
            参考: 玉(漢音:ギョク)……(1)たま。美しい石の総称。「宝玉」(2)ギョク。瑪瑙
(めのう)
                     似た半透明の石。乳白色の軟玉と、鮮緑色の硬玉とがある。(3)美しいもの、す
                      ぐれたものを形容する語。「玉楼」(4)天子に関することばに冠する語。「玉座」
                     (5)他人に関することばに冠する語。「玉稿」(6)以下、略。
              玊(漢音:キュウ(キウ))……(1)きずのある玉。 (2)玉細工をする職人。「玊人」
                 
 (『旺文社漢和辞典』赤塚忠・阿部吉雄編、1964年初版、1986年改訂新版による。)
        4. 底本については、巻頭の「例言」に次のようにあります。
          定本は呉氏覆刻乾道本とする。本書中で「原本」とよぶのはこれであって、中華書局の
         四部備用本を使った。
        5. 本文中に環境依存文字を使用しているため、うまく表示できない場合があると思います
         が、ご容赦ください。

        
 6. 『China the Beautiful』というサイトで、『韓非子』の「第四巻 第十三和氏」を読むことが
         できます。
             
『China the Beautiful』 → 下方の「諸子百家」をクリック 
                   → 「韓非子」の「上」をクリック 
                      → 「韓非子」の「第四巻 第十三和氏」までスクロール)
              お断り:残念ながら現在は見られないようです。(2017年10月27日)
        
 7. 『国立国会図書館デジタルコレクション』の中に、『韓非子』の古い注釈書が何冊か収録
         されていて、それを見る(読む)ことがで
ます。
            → 例えば、宮内鹿川著『韓非子講義』
(文華堂、明治42年1月15日発行) など
         8. 韓非(かんぴ)=中国、戦国時代の韓の公子。法家の大成者。かつて荀子に師事。申
              不害
(しんふがい)・商鞅(しょうおう)らの刑名の学を喜んだ。しばしば書を以て韓王を
              諌めたが用いられず、発憤して「韓非子」を著した。のち秦に使して李斯
(りし)
              に謀られ獄中で毒をおくられ自殺。(──~前233頃)
          韓非子(かんぴし)=(1)韓非の敬称。 (2)韓非およびその後学の著書。20巻55編。
              法律・刑罰を以て政治の基礎と説く。
          和氏
(かし)の璧(たま)=「卞和(べんか)」参照。
          卞和(べんか)=春秋時代の楚の人。荊山で得た、玉を含んだ石を楚の厲王
(れいおう)
              に献じたが、玉ではないとして左足を断たれた。武王のときまたこれを献じ、同じ
              く右足を斬られたが、文王のとき、これを磨かせると果たして玉であったから、名
              づけて「和氏
(かし)の璧(たま)」といった(韓非子和氏)。のち戦国時代に趙の恵王
              がこの玉を得、秦の昭王が15の城と交換しようとしたので、「連城の璧」とよば
              れた(史記
廉頗伝)。
          完璧(かんぺき)=[璧は円形の玉
(ぎょく)] 欠点がなく、すぐれてよいこと。完全無欠。
              「─を期する」「─な演技」            (以上、『広辞苑』第6版による。)
         9. 「和氏の璧」・「完璧」という言葉に関連して
        
  (1) 「和氏の璧」について、新釈漢文大系89『史記九(列伝二)』の注に、次のように紹介
           されています。 
( )内の読み仮名は、引用者がつけたものです。
         
楚人(そひと)の和氏(かし)が玉の原石を見つけ、楚の厲王(れいおう)に献じたが、玉人(ぎょくじん)
          がただの石だと鑑定したので、和氏は左足を切られた。武王の時代になって再び献じたが、またして
          も石と鑑定され右足をも切断された。文王の代になって、原石を抱(いだ)いて泣き続ける和氏のこと
          を伝え聞いた文王は、和氏からその訳をきき磨かせると果たして名玉であった。これに名づけて和氏
          の璧(かしのたま・かしのへき)といった。以上は、『韓非子』和氏篇に見える。(247頁)

          (2) 『史記』廉頗藺相如列伝の本文にある「相如曰王必無人臣願奉璧往使城入趙而璧留
           秦城不入臣請完璧歸趙」(相如曰はく、「王必ず人無くんば、臣願はくは璧
(たま)を奉
           じて往きて使ひし、城
(しろ)趙に入(い)らば璧をば秦に留めん。城入(い)らずんば、臣請
           ふ、璧
(たま)を完(まつた)うして趙に歸らん」と。)ということから、「完璧」という言葉が生
           まれました。
            「完璧」を訓読すれば、「璧を完
(まっと)うす(完璧)」となって、「璧(たま) を無傷で無
           事に取り戻す」という意味ですから、語源から言えば、辞書に「瑕(きず)のない璧(たま)
            (宝玉)の意から」「きずのない宝玉の意から」などと説明してあるのは、厳密には正し
            いとは言えないのではないかと思われます。
          (3) 璧(漢音・ヘキ、呉音・ヒャク)= (1)たま。平らな輪の形をした玉で、中央に穴があ
                  り、穴の直径が輪の幅と同じか小さいもの。祭り・儀式に用い、また爵位の
                  象徴としても使う。
(2)美しい玉。また、美しいもの、りっぱなもののたとえ。
                  「双璧
(ソウヘキ)」  [引用者注: 挿絵は省略しました。]
                                
(『改訂新版 漢字源』学習研究社、2002年による。)
             
璧(漢音・ヘキ)=(1)たま。環状の平たい玉で、肉の幅が中の穴の直径の二倍あ
                  るもの。
(2)玉の通称。(3)たまのように美しくりっぱなもの。「双璧」
                                           
 [引用者注: 挿絵は省略しました。]
               
 (『旺文社漢和辞典』赤塚忠・阿部吉雄編、1964年初版、1986年改訂新版による。)

 


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