(注) | 1. |
上記の「杞憂」の本文は、新釈漢文大系22『列子』(小林信明著、明治書院・昭和42年5月25日初版発行、昭和46年5月25日8版発行)によりました。 「杞憂」という題は、引用者がつけたもので、『列子』の本文にあるものではありません。 |
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2. | 新釈漢文大系の本文には句読点や返り点が施されていますが、ここではそれらを省略してあります。 | ||||
3. | 本文中の「 」の漢字は、島根県立大学のe漢字から利用させていただきました。 | ||||
4. | 新釈漢文大系の注を少し引かせていただきます。 (1)「只」は、これ。語助の字。香草続校書には、「即」と同じという。 (2)「中傷」の「中」は、あたる、の意。落ちてきたものが当たって、けがをする。 (3)「地積塊耳充塞四虚」について。中国古来の考え方では、「天円地方」であって、天球という考えはあっても、地球という考え方はない。それで、地は果てしなく広がって、四方の空間(四虚)に充塞している、とするのである。 (4)「長廬子」の「廬」は、「盧」とする本もある。 (5)「火木」は、一本には「水火」に作る。 |
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5. |
〇杞憂(きゆう)=〔列子天瑞〕(中国の杞の国の人が、天地が崩れて落ちるのを憂えたという故事に基づく)将来のことについてあれこれと無用の心配をすること。杞人の憂え。取り越し苦労。「─であれば幸いだ」 〇列子(れっし)=(1)春秋戦国時代の道家。名は禦寇(ぎょこう)。鄭の人。老子よりややおくれ、荘子より前、孔孟の中間の頃の人ともいうが、伝未詳。唐の玄宗は冲虚真人と諡(おくりな)した。(2)書名。8巻8編。列子(1)の撰とするが、異説が多い。列子死後の事項が多いので、後人の偽作ともいう。老子の清虚・無為に基づき、寓言が多い。冲虚真経。冲虚至徳真経。 (以上、『広辞苑』第6版による。) |
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6. |
初めの部分だけ、書き下し文と語釈をつけておきます。(読み仮名は現代仮名遣いです。) 杞(き)の国に、人の天地崩墜(ほうつい)して身寄る所亡きを憂(うれ)へて寝食を廃する者有り。又、彼の憂ふる所あるを憂ふる者有り。因(よ)りて、往(ゆ)きて之(これ)を暁(さと)して曰(い)はく、「天は積気(せっき)のみ。処として気亡きは亡し。屈伸呼吸のごとき、終日天中に在りて行止(こうし)するなり。奈何(いかん)ぞ崩墜を憂へんや」と。其の人曰はく、「天果して積気なりとも、日月星宿(じつげつせいしゅく)、当(まさ)に墜(お)つべからざるか」と。之を暁(さと)す者曰はく、「日月星宿は、亦積気中の光耀(こうよう)有る者なり。只(こ)れ墜ちしむるも、亦中傷(ちゅうしょう)する所有る能(あた)はず」と。其の人曰はく、「地の壊(くず)るるを奈何(いかん)せん」と。暁す者曰はく、「地は積塊(せっかい)のみ。四虚(しきょ)に充塞(じゆうそく)し、処として塊(かい)亡きは亡し。躇歩蹈(ちょほしとう)のごとき、終日地上に在りて行止するなり。奈何(いかん)ぞ其の壊(くず)るるを憂へんや」と。其の人舎然(しゃくぜん)として大いに喜ぶ。之を暁す者も亦舎然として大いに喜べり。(以下、略) 語釈: 〇杞(き)=周代の国名。周の武王が、夏(か)王朝の子孫を封(ほう)じた国。今の河南省杞県にあった。 〇積気(せっき)=積み重なった大気。天のこと。 〇行止(こうし)=行くことと止(とど)まること。ふるまうこと。 〇星宿(せいしゅく)=星座のことだが、ここは、星をいう。「宿」は星座。 〇中傷(ちゅうしょう)=ここは、当たって怪我をする。「中」は、当たる。 〇積塊(せっかい)=積み重なった土塊。大地のこと。 〇四虚(しきょ)=四方の空間。 〇充塞(じゅうそく)=いっぱいになってみちふさがる。 〇躇歩蹈(ちょほしとう)=「躇」「」「蹈」のいずれも、地をふむ意。 〇舎然=「しゃくぜん」、「せきぜん」の両方の読みがある。意味は、疑いや迷いがすっかりなくなり、さっぱりするさま。釈然。 |
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7. | 『陽碍山』というサイトに『中国故事物語』(河出書房新社、昭和38年1月30日初版発行)が入っていて、そこに「杞憂」が載っていますので、ご覧ください。 残念ながら現在は見られないようです。 |
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8. | フリー百科事典『ウィキペディア』に「杞」の項目があります。 | ||||
9. | 『故事成語大事典』の項目に「杞憂」があります。 |