資料326 陸游の詩「客去」



         客 去   陸 游

 相 對 蒲 團 睡 味 長
 主 人 與 客 兩 相 忘
 須 臾 客 去 主 人 覺
 一 半 西 窗 無 夕 陽


   客 去 る    陸 游
蒲団(ほたん)に相(あい)対して睡味(すいみ)長く
主人と客(かく)と両(ふた)つながら相忘る
須臾(しゅゆ)にして客(かく)去り主人覚(さ)むれば
一半(いっぱん)の西窓(せいそう)に夕陽(せきよう)無し
 


  (注) 1.  上記の陸游の詩「客去」は、NHKライブラリー190『漢詩をよむ 陸游100選』(石川忠久著、2004(平成16)年12月15日第1刷発行)によりました。    
    2.   嘉泰元(1201)年、陸游77歳の作。『漢詩をよむ 陸游100選』の著者・石川忠久氏は、「禅味のある小品。とぼけた味わいは、李白 [山中にて幽人と対酌す] 詩の「我酔うて眠らんと欲す 卿(きみ) (しばら)く去れ」に通うものがある」と評しておられます。

  (参考)
   山中與幽人對酌  李白     
  兩 人 對 酌 山 花 開     
  一 杯 一 杯 復 一 杯     
  我 醉 欲 眠 卿 且 去    
  明 朝 有 意 抱 琴 來              
        
   山中にて幽人と対酌す
  両人対酌すれば 山花開く
  一杯一杯 復た一杯
  我酔うて眠らんと欲す 卿(きみ)(しばら)く去れ
  明朝意有らば 琴を抱(いだ)いて来(きた)

(語句) 
 〇幽人……世を避けて山奥に住んでいる人。 
 〇我酔欲眠卿且去……六朝の詩人陶淵明は酒が大好きで、誰が訪れて来ても一緒に酒を飲んだが、彼は先に酔っぱらってしまうと、客に向かって言った、「私は酔うて眠たくなった。君もひとまず帰りたまえ」。

 <「山中與幽人對酌 李白」の詩については、『中国詩人選集7』李白・上(武部利男・注、岩波書店・昭和32年11月20日第1刷発行)によりました。> 
      
   
    3.   「蒲団(ほたん)」は、蒲(がま)や麦わらで編んだ円形の敷物。座布団のようなもの。    
    4.  〇陸游(りく・ゆう)=南宋前期の詩人。字は務観、号は放翁。浙江山陰(紹興)の人。金に対する抗戦を唱え、当局者に嫌われて不遇の生涯を送る。詩は慷慨の気に満ちた愛国詩人の面と、農村の日常を以する田園詩人の面とに特色を見る。范成大・楊万里・尤袤(ゆうぼう)とともに南宋四大家と称される。著「剣南詩稿」「渭南文集」「老学庵筆記」「入蜀記」など。(1125-1209)(『広辞苑』第6版による。)    
    5.   陸游の詩では、次の「遊山西村(山西の村に遊ぶ)」がよく知られています。

     遊山西村 陸游
    莫笑農家臘酒渾   
    豐年留客足鷄豚   
    山重水複疑無路   
    柳暗花明又一村   
    簫鼓追隨春社近   
    衣冠簡朴古風存   
    從今若許閑乘月   
    拄杖無時夜叩門   

   山西(さんせい)の村に遊ぶ    陸游
笑ふ莫(なか)れ農家の臘酒(ろうしゅ)(にご)れるを
豊年(ほうねん)(かく)を留(とど)むるに鶏豚(けいとん)足る
山重水複(さんちょうすいふく)(みち)無きかと疑へば
柳暗花明(りゅうあんかめい)(ま)た一村(いっそん)
簫鼓(しょうこ)追随して春社(しゅんしゃ)近く
衣冠(いかん)簡朴(かんぼく)にして古風存(そん)
今より若(も)し閑(かん)に月に乗(じょう)ずるを許さば
(つえ)を拄(つ)き時と無く夜(よる)門を叩(たた)かん
   
           







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