資料317 山笑ふ・山粧ふ・山眠る(『改正月令博物筌』・『臥遊録』より)
|
山笑ふ・山粧ふ・山眠る |
| |||||||
|
☆ 出典について |
| |||||||
|
俳句に「山笑ふ」「山粧ふ」「山眠る」という季語がありますが、この言葉は北宋の画家・郭煕の言葉で、一般に出典は南宋の呂祖謙の『臥遊録』だとされているようです。しかし、この言葉が最初に出ている書物を出典として挙げるとすれば、子の郭思が編集した『林泉高致集』とすべきではないでしょうか。
|
|
|
郭煕《記》『春山淡冶而如笑, 夏山蒼翠而如滴, 秋山明淨而如粧, 冬山慘淡而如睡。』 |
| |||||||
|
序でに、『游録(繁本)』の「點校説明」(陳金生 黄靈庚)から、一部を省略して引用しておきます。
|
|
(注)☆『改正月令博物筌』について
1.上記の『改正月令博物筌』は、早稲田大学図書館の画像によりました。
この本は、天保12年(1841)3月に出版された、文化元年(1804)-
5年(1808)刊の本の新訂本の由です。
『改正月令博物筌』 天保十二年丑三月
江戸日本橋通り一丁目
須原屋茂兵衛
ほか4名の共同刊行。
題簽の書名は『季寄/註解 改正月令博物筌』、見返しの書名は『改正
月令博物筌』(貝原先生歳時増選、鳥飼洞斎編述)となっています。
2.夏山のところに平仮名の「く」を縦に伸ばした形の繰り返し符号が使
ってありますが、これは普通の仮名に直してあります(「アヲアヲ」)。
3.東北大学附属図書館のホームページでも、『東北大学デジタルコレク
ション』で、『季寄/註解 改正月令博物筌』(貝原益軒選・鳥飼洞斎編、
文化5年・浪花塩屋弥へ兵衛等刊)を画像で見ることができます。
東北大学附属図書館 → 『季寄註解改正月令博物筌』の「山眠」の画像
(詳しい出し方) 東北大学附属図書館 → TOP画面で「所蔵コレクション」をクリック
→ 「デジタルコレクション」をクリック
→ 検索キーワードに「改正月令博物筌」と入力して検索
→ 「3. 季寄註解改正月令博物筌」をクリック
→ 左の「コンテンツ数804」の下の「1-5」の右の▼をクリック
→ ここから「771-775」を出してクリック
→ そこから「773」を出すと、右に『季寄註解改正月令博物筌』の
「山眠」の画像が出るので、これを拡大して見る。
☆『臥遊録』について
4. 上に引いた『游録(繁本)』は、次の本によっています。
『呂祖謙全集』第16冊(黄靈庚・吴戰壘 主編、浙江古籍出版社・
2008年1月第1版発行)
5.「支公好鶴, 住剡東山。」の「」は、原文は「山」が左、「卬」
が右の字です。
6.「郭煕《記》『春山淡冶……」の「記」は、書名ではなく、郭煕の
「書いたもの」という意味でしょうか。
☆ 郭煕について
|
7.郭煕(かく・き)=北宋の画家。字は淳夫。河陽温県の人。神宗の時、宮殿の壁画 |
| |
|
|
を制作。李成の系統の画風。画論「林泉高致集」は三遠で有名。「早春図」 |
|
|
郭煕(かくき)=字、淳夫。北宋の画家。河陽温県(河南)を原籍とする。宋初の李 |
| |
|
|
成の画風を学んだが、独自に遠近法を用いて自然を実写的に描き、山水 |
|
|
郭煕(かく・き)=中国北宋の画家。宋初の李成に私淑し、北方系山水画の様式 |
| |
|
|
を確立。「林泉高致」を著し、山水画の基本形式である三遠の法則を確立。 |
|
|
※ 三遠(さんえん)=[美学・美術]中国の山水画で空間を構成する三つの原理。山の麓から |
|
なお、フリー百科事典『ウィキペディア』に「郭煕」の項があります。
また、『林泉高致集』山水訓の原文・書き下し文・訳文等については、
注の10をご覧ください。(ただし、現在のところ、まだ山水訓のごく初め
の部分しか書かれていないようです。)
☆ その他
8.『広辞苑』の 「山笑う」「山粧う」「山眠る」を引いておきます。
|
山笑う [画品、郭煕四時山「春山淡冶にして笑うが如く、夏山蒼翠として滴(した) | ||
|
|
たるが如し、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として睡(ねむ)るが如し」]春の芽吹きはじめた華やかな山の形容。冬季の山の淋しさに対していう。笑う山。<季・春> |
|
|
山粧(よそお)う 晩秋の澄んだ空気のなかで、山が紅葉に彩られているさ |
| |
|
山眠る 冬季の山が、枯れていて全く精彩を失い、深い眠りに入るように |
9.「山滴る」という言葉は、季語として認められているのでしょうか。
『広辞苑』には出ていないようですが、歳時記によっては、季語として
採用しているものもあるようです。
10.『林泉高致集』山水訓の原文・書き下し文・訳文等について
跡見学園女子大学の島田英誠先生のホームページ『柳上書屋』にWEB版
「中国絵画史辞典」があり、そこに郭煕や『林泉高致集』についての解
説、『林泉高致集』山水訓の「原文」「返り点つき本文」「読み下し」
「訳」が出ていますが、山水訓の本文については、残念ながら、現在のと
ころまだ、ごく初めの部分しか書かれていないようです。(2002年1月18日)
※ 現在、上記のWEB版「中国絵画史辞典」・「林泉高致集」・「林泉高致集」山水訓などは、
見られない(接続できない)ようです。(2012年6月16日)
11.資料318に『四庫全書』文淵閣本による『林泉高致集』山水訓の本文が
あります。