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(注) |
1. |
上記の『桃太郎昔語(ももたろうむかしがたり)』の台詞本文は、『近世子どもの絵本集 江戸篇』(鈴木重三・木村八重子編、岩波書店 1985年7月26日第1刷発行)と、『江戸の子どもの本 赤本と寺子屋の世界』(叢の会・編、笠間書院 2006年4月28日発行)によって記述しました。(絵本なのに言葉だけを取り上げるというのは誠におかしなことですが、絵を掲載する には、いろいろ難しいことがありそうに思われるので、話の筋だけでも分かればと思って、そうした次第です。どうぞご了承ください。) |
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2. |
原本は、東京都立中央図書館加賀文庫所蔵の『再板 桃太郎昔語』の由です。この本は、全十丁で、絵師は一丁表に描かれている屏風の絵に「西村重信圖」、十丁裏の左上に「ゑし西村孫三良」と書かれています。『近世子どもの絵本集 江戸篇』によれば、西村重信は、孫三郎とも称し、西村重長の門人と考えられ、作画期は享保後期から元文頃にかけてだそうです。 |
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3. |
変体仮名や平仮名の「く」を縦に伸ばした形の繰り返し符号は、すべて普通の仮名に直してあります。(「むかしむかし」「そろそろ」など)
なお、濁点が振ってある仮名と振ってない仮名との区別がはっきりしないので、原本に濁点がついているのにここの本文に濁点が落ちている場合が考えられます。この点、ご注意ください。 |
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4. |
会話の初めの丸括弧( )内は、発言者と思われる人物名を示したものです。 |
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5. |
上掲の『近世子どもの絵本集 江戸篇』と『江戸の子どもの本
赤本と寺子屋の世界』には、普通の漢字を当てた台詞が掲載されていて、読みやすくなっています。ただし、両者には一部、言葉の発言者の受け取り方が異なっている部分があります。
(1)一丁裏の「みづのなかれと人のくわほうは さりとはさりとはしれぬものじや」を『近世こどもの絵本集』(以下、『近世』と略す)では婆の言葉と見、『江戸の子どもの本』(以下、『江戸』と略す)では地の文と見ています。(ここでは、『江戸』に従って地の文と見てあります。)
(2)三丁裏の「これはかりにこいしかなんのおもたいものた わかいしゆ みさしつたか うけとりてはないか」の部分を、『近世』では、「これはかりにこいしかなんのおもたいものた わかいしゆ」までを桃太郎の言葉とし、「みさしつたか うけとりてはないか」の部分を別の男の言葉と見ています。『江戸』では、このすべてを桃太郎の言葉と見ています。(ここでは『近世』に従ってあります。)
(3)四丁裏の「きち も一つくたされ おとももうさう」の部分を、『近世』では、<(雉)「雉も一つくだされ。お供申そう」>とし、『江戸』では、<(雉)「も一つくだされ。お供申そう。」>としてあります。(ここでは、「きち」を発言者の表示と見て、<きち「も一つくたされ おとももうさう」>としました。なお、「もうさう」の仮名は、二丁裏に「はねのけもうす」とあるのを参考に、「もうさう」と見ました。) |
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6. |
語注をつけておきます。
〇うさぎのてから……兎の手柄。赤本に『兎大手柄』があります。
〇ばゞかまつてゝあろ……婆が待ってであろ。 〇おとこの子しや……男の子じゃ。 〇をれかてを……俺が手を。 〇しゝかわかやく……爺が若やぐ。 〇ももか……桃が。 〇ちこゝろもなうて……「ちこゝろ」は、血心。分娩後の出血。知の道。出産後の異常もなくて。
〇ゆをまいれ……湯を参れ。女が婆にお湯を飲むようすすめているところ。
〇くすりをちとしんせましよ……薬をちと進ぜましょ。 〇これはかりにこいしかなんのおもたいものた……こればかりに小石が何の重たいものだ。 〇わかいしゆ……若い衆。 〇みさしつたか……見さしったか。 〇つがもない……「つがなし」(分別がない。たわいない。)を強めていう語。とんでもない。途方もない。 〇ひとりむすこかのそみしや……一人息子が望みじゃ。
〇ちつちくさい……小(ち)っちくさい。 〇とうたんこ……十団子。東海道宇津谷峠の名物。 〇大ふつもち……大仏餅。近世、京阪地方で流行した餅で、上に大仏の像を焼印でおしたもの。のちに江戸でも流行。元祖は京都誓願寺前の店。 〇いくよもち……幾世餅。切り餅をあぶって小豆餡をつけたもの。元禄のころ、江戸両国の小松屋喜兵衛が妻幾世の名をつけて売り出し、評判になったという。
〇はだした……はだしだ。「はだし」は、裸足・跣。(はだしで逃げる意から)とても及ばないこと。 〇さるとは……「さりとは」を猿に掛けた言い方。 〇みぢんこつはい……微塵粉っ灰。こなみじん。こなごな。『近世子どもの絵本集』では、「微塵骨灰」とし、『江戸の子どもの本』では「微塵粉灰」としています。(『広辞苑』では「微塵粉つ灰」、『大辞林』では「微塵骨灰」としてあります。)
〇つのをもいて……角をもいで。 〇あてこともない……途方もない。とんでもない。 〇しぶてい……しぶとい。 〇いらざるおれとのうでたて……無用の俺との腕力争い。 〇わかしかた……若衆方(わかしゅがた)。歌舞伎の役柄。美少年の役。また、それに扮する俳優。ここは若衆姿の桃太郎。 〇まつこんにはこれきり……まず今日(こんにち)はこれきり。「こんに」は「こんにち」の誤記であろう。歌舞伎で、終演を告げる座頭(ざがしら)の口上。このあとにある「とんとんとん」は「どんどんどん」で、太鼓の音。 〇ぎよい……御意。 〇ゑんめいぶくろ……延命袋。宝物の一つ。福の神の持っている錦の袋。 〇いくらても……いくらでも。 〇もとりました……戻りました。 〇一ばんめからつめまで……一番目から詰めまで。歌舞伎用語。一日の芝居の前半である時代物の最初から終幕まで。ここは、初めから終わりまで、の意。 〇できました……褒め言葉。大出来。 〇此あとてこめをうちたしてやらう……この後で(打ち出の小槌で)米を打ち出してやろう。 〇たゞかねかよふござる……ただ、金がようござる。 |
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7. |
〇桃太郎(ももたろう)=昔話の一つ。桃の中から生まれた桃太郎が、犬・猿・雉きじを連れて鬼ヶ島の鬼を退治するという話。室町時代の成立で、時代色を濃く反映し、忠孝勇武の徳を謳歌する。(『広辞苑』第6版による)
〇桃太郎(ももたろう)=昔話の一。また、その主人公の名。川を流れてきた桃の中から生まれた桃太郎が、老夫婦に育てられ、成長して犬・猿・キジを供に連れて鬼が島の鬼を退治し、金銀財宝を持ち帰る。(『大辞泉 増補・新装版』(デジタル大辞泉)による)
* 普通の辞書では、桃太郎は桃から生まれたという果生譚だけが書かれていて、回春譚には触れてありません。
前掲の『江戸の子どもの本』の解説に、『桃太郎昔語』について、「桃太郎の絵本化は江戸中期から始まったが、本書は比較的早い例の一つ。体裁を改めた再版本も出版され、人気の程が窺われる。桃太郎の誕生には桃から生まれる果生譚(かせいたん)と桃を食べて若返った爺婆から生まれる回春譚(かいしゅんたん)の二つがある。江戸期ではほとんどが回春譚で、江戸末期を過渡期として明治期以降は果生譚となった。この作品も回春譚で、出産場面が描かれている。(後略)」とあります。(同書、3頁。青太字にしたのは引用者) |
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国立国会図書館『国際子ども図書館』の「絵本ギャラリー」で、『桃太郎宝の蔵入り』を画像で見ることができます。(『桃太郎宝の蔵入り』所蔵:国立国会図書館、種類:豆本、作画者:夷福山人作・歌川広重画、版元:佐野屋、刊行年:1830~40年頃、120×87mm) この『桃太郎宝の蔵入り』も、回春譚の桃太郎です。
ただし、動作環境として、Shockwave Player(最新版を推奨)のインストール、1Mbps ADSL 相当以上の高速インターネット回線、1024*768 ドット以上のモニタが必要とのことです。(Shockwave Player は、下記の「江戸絵本とジャポニズム」の画面からインストールすることができます。)
『国際子ども図書館』 右側の「絵本ギャラリー」
→ 「江戸絵本とジャポニズム」
→ タイトル「江戸絵本とジャポニズム」の、タイトル左下にある枠で囲んである「江戸絵本とジャポニズム」をクリック
→ 右下の「はじまる」をクリック → 「桃太郎宝の蔵入り」をクリック
→ 右下の「プレイ」をクリックして始まります。 |
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