資料293 『桃太郎昔語』(台詞のみ)


 

 

 まえおき
    
桃太郎の話は、ふつうは「桃から生まれた桃太郎、気はやさしくて力持ち……」という
  唱歌にも歌われているように、桃から誕生したことになっていますが、古くは、お婆さん
  が川から拾って来た桃をお爺さんと一緒に食べて、若返った二人から桃太郎が生まれる、
  という形の話もありました。桃から生まれる「果生譚
(かせいたん)」に対して、「回春譚
  (かいしゅんたん)
」といわれる系統の話です。
   ここには、江戸時代に刊行された赤本という、子ども向けの絵本の『桃太郎昔語
(もも
  たろうむかしがたり)
』から、文字の部分だけを取り上げて記載しました。桃太郎の回春譚に
  属する話です。


   
 

  

   桃太郎昔語(ももたらうむかしがたり)   
   

(右上の男の子)「むかしむかしあつたとさ じゞは山へくさかりに」
(右下の男の子)「もゝたらうはおもしろい」
(左下の男の子)「そのあとてうさぎのてからをきゝたい」
(左上の男の子)「だまつてきけ」                    (一丁表)

  ぢゞはやまへくさかりに 
(爺)「けふはいかふのどかな日じや そろそろやどへかへりましよ ばゞかまつてゝ
   あろ」
(婆)「もうひとつなかれてこい じゞにしんじよ さてさてふしきなもゝじや」
  みづのなかれと人のくわほうは さりとはさりとはしれぬものじや 
(一丁裏・二丁表)

(右端下の女)「でかしやつた おとこの子しや さてさて」
(右下中央の産婆)「此子はつよいこじや をれかてをはねのけもうす」
   しゝかわかやく
(右側左の爺)「うれしやうれしや ももか此やうな子になつた なはももたらうとつけ
     ませう」
  ばゞわかやぎ
(婆)「あゝうれしうござんす」
(左上にいる婆の右にいる女)「ちこゝろもなうておしあわせ これ ゆをまいれ」
(左下の女)「くすりをちとしんせましよ」             (二丁裏・三丁表)

  ももたらうちからもち
(右上の桃太郎)「これはかりにこいしかなんのおもたいものた わかいしゆ」
(桃太郎の左にいる、腕に「一心命」の刺青のある男)「みさしつたか うけとりてはないか」
(右下にいる若い衆)「てんとあきれはてた このがきはたいていな事しやない つがも 
     ない てにやおへない」
(桃太郎の母)「たんなとの せいださつしやれ ひとりむすこかのそみしや」
(左下にいる桃太郎)「とゝさま まるめてくたされ もうたんごはちつちくさいぞ」
                                
(三丁裏・四丁表)
  もゝたらうがいわく
(桃太郎)「おれはおにかしまへたからとりにいく ともをいたせ だんごはのそみにま
    かせてとらしよ」
 さる「これがとうたんこか わたくしもともいたさう 二つくたされませ」
 きち「も一つくたされ おとももうさう」
 いぬ「うまいこと 大ふつもち いくよもちははだした まつとくいたい」
                                
(四丁裏・五丁表)
(右上の猿)「さるとはなんじよ」
(右下の雉)「だんなはよつほとさきへゆかれたそうな」
(右側左下の犬)「わんわん いそぎましておともいたさう」
(左端にいる桃太郎)「まてまて なかのやつらはみぢんこつはにしてやらう」 
                                
(五丁裏・六丁表
(右側左にいる桃太郎)「つのをもいてやらう」
(右下の犬)「をらがだんなのうでにどうしてかつことはなるまい」
(左の鬼)「あてこともないしぶていやつらだ」           (六丁裏・七丁表)

(右上にいる猿)「いらさるをれとのうでたて」
(右下の鬼)「ひとかみにされた」
(左下の鬼)「おゝいたいいたい」
(左上の鬼)「わかしかたはとりわけつよいやつだ」         (七丁裏・八丁表)

(右下にいる雉)「はなつたらしめら」
(左上の鬼)「なんでもぎよいにしたがいませう みんなこつちのむりてこさります」
(左下の鬼)「たしかくらにゑんめいぶくろがごさりました」
(左端の鬼)「いくらてもあけさつしやれ だんなだんなだんな」
(中央の桃太郎)「まつこんにはこれきり とんとんとん」      (八丁裏・九丁表)

(右中央の桃太郎)「おにかしまへわたりいろいろたからをとつてもとりました」
(左にいる二人の村人)「これはさておてがらおてがら 一ばんめからつめまでできま
     した」                        
(九丁裏・十丁表)

(両親の前、右側にいる桃太郎)「此あとてこめをうちたしてやらう」
(左下にいる男)「たゞかねかよふござる」                (十丁裏)

 

 

  
 
   (注)  1.  上記の『桃太郎昔語(ももたろうむかしがたり)』の台詞本文は、『近世子どもの絵本集 
         江戸篇』(鈴木重三・木村八重子編、岩波書店 1985年7月26日第1刷発行)と、『江戸の
         子どもの本 
赤本と寺子屋の世界』(叢の会・編、笠間書院 2006年4月28日発行)によって
         記述しました。 
絵本なのに言葉だけを取り上げるというのは誠におかしなことですが、絵を掲載
        する には、いろいろ難しいことがありそうに思われるので、話の筋だけでも分かればと思って、そ
         うした次第です。どうぞご了承ください。)

        2. 原本は、東京都立中央図書館加賀文庫所蔵の『再板 桃太郎昔語』の由です。この
         本は、全十丁で、絵師は一丁表に描かれている屏風の絵に「西村重信圖」、十丁裏の
         左上に「ゑし西村孫三良」と書かれています。『近世子どもの絵本集 江戸篇』によれば、
         西村重信は、孫三郎とも称し、西村重長の門人と考えられ、作画期は享保後期から元
         文頃にかけてだそうです。
         3. 変体仮名や平仮名の「く」を縦に伸ばした形の繰り返し符号は、すべて普通の仮名に
         直してあります。(「むかしむかし」「そろそろ」など)
          なお、濁点が振ってある仮名と振ってない仮名との区別がはっきりしないので、原本
         に濁点がついているのにここの本文に濁点が落ちている場合が考えられます。この
         点、ご注意ください。
        4. 会話の初めの丸括弧( )内は、発言者と思われる人物名を示したものです。
        5. 上掲の『近世子どもの絵本集 江戸篇』と『江戸の子どもの本
赤本と寺子屋の世界』に
         は、普通の漢字を当てた台詞が掲載されていて、読みやすくなっています。ただし、
         両者には一部、言葉の発言者の受け取り方が異なっている部分があります。
         
(1)一丁裏の「みづのなかれと人のくわほうは さりとはさりとはしれぬものじや」を『近世こどもの
            絵本集』(以下、『近世』と略す)では婆の言葉と見、『江戸の子どもの本』(以下、『江戸』と略
            す)では地の文と見ています。(ここでは、『江戸』に従って地の文と見てあります。)
          (2)三丁裏の「これはかりにこいしかなんのおもたいものた わかいしゆ みさしつたか うけとり
            てはないか」の部分を、『近世』では、「これはかりにこいしかなんのおもたいものた わかい
            しゆ」までを桃太郎の言葉とし、「みさしつたか うけとりてはないか」の部分を別の男の言葉
            と見ています。『江戸』では、このすべてを桃太郎の言葉と見ています。(ここでは『近世』に
            従ってあります。)
          (3)四丁裏の「きち も一つくたされ おとももうさう」の部分を、『近世』では、<(雉)「雉も一つく
            だされ。お供申そう」>とし、『江戸』では、<(雉)「も一つくだされ。お供申そう。」>としてあ
            ります。(ここでは、「きち」を発言者の表示と見て、<きち「も一つくたされ おとももうさう」>
            としました。なお、「うさう」の仮名は、二丁裏に「はねのけうす」とあるのを参考に、「うさ
            う」と見ました。)
        6. 語注をつけておきます。
          
うさぎのてから……兎の手柄。赤本に『兎大手柄』があります。  ばゞかまつてゝあろ……婆が待って
            であろ。  おとこの子しや……男の子じゃ。  をれかてを……俺が手を。  しゝかわかやく……爺が
            若やぐ。  ももか……桃が。  ちこゝろもなうて……「ちこゝろ」は、血心。分娩後の出血。知の道。出
            産後の異常もなくて。  ゆをまいれ……湯を参れ。女が婆にお湯を飲むようすすめているところ。
            くすりをちとしんせましよ……薬をちと進ぜましょ。  これはかりにこいしかなんのおもたいものた……
            こればかりに小石が何の重たいものだ。  わかいしゆ……若い衆。  みさしつたか……見さしったか。
            つがもない……「つがなし」(分別がない。たわいない。)を強めていう語。とんでもない。途方もない。
            ひとりむすこかのそみしや……一人息子が望みじゃ。  ちつちくさい……小(ち)っちくさい。
            とうたんこ……十団子。東海道宇津谷峠の名物。  大ふつもち……大仏餅。近世、京阪地方で流行し
            た餅で、上に大仏の像を焼印でおしたもの。のちに江戸でも流行。元祖は京都誓願寺前の店。
            いくよもち……幾世餅。切り餅をあぶって小豆餡をつけたもの。元禄のころ、江戸両国の小松屋喜兵衛
            が妻幾世の名をつけて売り出し、評判になったという。  はだした……はだしだ。「はだし」は、裸足・跣。
            (はだしで逃げる意から)とても及ばないこと。  さるとは……「さりとは」を猿に掛けた言い方。  みぢん
            こつはい……微塵粉っ灰。こなみじん。こなごな。『近世子どもの絵本集』では、「微塵骨灰」とし、『江戸
            の子どもの本』では「微塵粉灰」としています。(『広辞苑』では「微塵粉
灰」、『大辞林』では「微塵骨灰」
            としてあります。)  つのをもいて……角をもいで。  あてこともない……途方もない。とんでもない。  
            しぶてい……しぶとい。  いらざるおれとのうでたて……無用の俺との腕力争い。  わかしかた……
            若衆方(わかしゅがた)。歌舞伎の役柄。美少年の役。また、それに扮する俳優。ここは若衆姿の桃太郎。
            まつこんにはこれきり……まず今日(こんにち)はこれきり。 「こんに」は「こんにち」の誤記であろう。歌舞
            伎で、終演を告げる座頭(ざがしら)の口上。このあとにある「とんとんとん」は「どんどんどん」で、太鼓の
            音。   ぎよい……御意。    ゑんめいぶくろ……延命袋。宝物の一つ。福の神の持っている錦の袋。
            いくらても……いくらでも。  もとりました……戻りました。  一ばんめからつめまで……一番目から詰
            めまで。歌舞伎用語。一日の芝居の前半である時代物の最初から終幕まで。ここは、初めから終わりま
            で、の意。  できました……褒め言葉。大出来。  此あとてこめをうちたしてやらう……この後で(打ち出
            の小槌で)米を打ち出してやろう。  たゞかねかよふござる……ただ、金がようござる。

        7.桃太郎(ももたろう)=昔話の一つ。桃の中から生まれた桃太郎が、犬・猿・雉
きじ
               連れて鬼ヶ島の鬼を退治するという話。室町時代の成立で、時代色を濃く
               反映し、忠孝勇武の徳を謳歌する。        
 (『広辞苑』第6版による)          
           桃太郎(ももたろう)=昔話の一。また、その主人公の名。川を流れてきた桃の中か
               ら生まれた桃太郎が、老夫婦に育てられ、成長して犬・猿・キジを供に連れ
               て鬼が島の鬼を退治し、金銀財宝を持ち帰る。
                                
(『大辞泉 増補・新装版』(デジタル大辞泉)による)  
         * 普通の辞書では、桃太郎は桃から生まれたという果生譚だけが書かれていて、回春譚には触
           れてありません。
            前掲の『江戸の子どもの本』の解説に、『桃太郎昔語』について、「桃太郎の絵本化は江戸中期
           から始まったが、本書は比較的早い例の一つ。体裁を改めた再版本も出版され、人気の程が窺わ
           れる。桃太郎の誕生には桃から生まれる果生譚(かせいたん)と桃を食べて若返った爺婆から生
           まれる回春譚(かいしゅんたん)の二つがある。江戸期ではほとんどが回春譚で、江戸末期
          を過渡期として明治期以降は果生譚となった。この作品も回春譚で、出産場面が描かれて
          いる。
(後略)」とあります。(同書、3頁。青太字にしたのは引用者)
        8. 国立国会図書館『国際子ども図書館』の「絵本ギャラリー」で、『桃太郎宝の蔵入り』を
         画像で見ることができます。
(『桃太郎宝の蔵入り』所蔵:国立国会図書館、種類:豆本、作画者:
 
        夷福山人作・歌川広重画、版元:佐野屋、刊行年:1830~40年頃、120×87mm)  この『桃太郎宝の蔵
         入り』も、回春譚の桃太郎です。
              
ただし、動作環境として、Shockwave Player(最新版を推奨)のインストール、1Mbps
         ADSL 相当以上の高速インターネット回線、1024*768 ドット以上のモニタが必要との
         ことです。(Shockwave Player は、下記の「江戸絵本とジャポニズム」の画面からイン
         ストールすることができます。)

         
 『国際子ども図書館』 右側の「絵本ギャラリー」 → 「江戸絵本とジャポニズム」
            → タイトル「江戸絵本とジャポニズム」の、タイトル左下にある
                                 枠で囲んである「江戸絵本とジャポニズム」をクリック
               → 右下の「はじまる」をクリック → 「桃太郎宝の蔵入り」をクリック
                                       → 右下の「プレイ」をクリックして始まります。






             
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