資料285 横井也有『鶉衣』の中の発句(俳句)等

 

 

  

  『鶉衣』の中の發句(俳句)等     横 井 也 有

  袴着る日はやすまする團かな (奈良團贊)
  物ずきの蟲はきてなけ蓼の花 (蓼花巷記)
  鶯を夜にして聞あさ寐かな (朝寐辭)
  魚うりの聲よそにふけ靑嵐 (謝無馳走辭)
  かる人の手によごれけり金銀花 (借物の辨)  
  ゆだんすな鼠の名にも廿日草 (猫自畫贊)
  花あらば花の留守せん下戸ひとり (斷酒辨)
  膝痩て琵琶のなつきや秋の暮 (音曲説)
  捨時をしらぬ案山子の弓矢かな (案山子辭)
  是は笠これは蓑とてのけたればあとには何かかゝしなるらむ (同)
  草刈のそしるをきけば絲瓜かな (絲瓜辭)
  垣にへちまさてはあるじも疝氣持 (同)
  四角なる浮世の蚊屋はしまひけり (隱居辨)
  剃てこそ月にまことの影法師 (剃髮辨)
  へちまとはへちまに似たで絲瓜哉 (自名づく説)
  跡の鴈先へとはたが秋のそら (弔不幸文 
贈六林
  友とせむ臍物いはゞ秋の暮 (臍頌)
  笠もたで幽靈消るしぐれ哉 (幽靈説)
  六十てふ身や夫だけのはぢ紅葉 (六十齡説)
  夢をのせて飛ぶ翅あり夜着の袖 (夜着頌)
  一えだの梅はそへずや柊うり (節分賦)
  雪はらふ垣ねや梅の厄おとし (同)
  梅やさく福と鬼とのへだて垣 (同)
  我とわが塚の掃除や春の草 (發句塚序)
  臼の香や月の兎はきゝ知らむ (香木記)
  死ざまに念佛申さぬ人はあれどねざまに小便せぬ人ぞなき (一德辨)

  木曽路に假の旅とて別しが 武蔵野に長きうらみとは成ぬる
    呼べばこたふ松の風 消てもろし水の漚
  わすれめや  茶に語し月雪の夜
  おもはずよ  菊に悲しむ露霜の秋
    庵は鼠の巣にあれて 蝙蝠群て遊
    垣は犬の道あけて 蟋蟀啼て愁
     昔の文なほ殘 老の涙まづ流
  よしかけ橋の雲にかゝらば 招くに魂もかへらんや不 (咄々房挽歌
序)

  一聲や二見にかよふほとゝぎす (郭公文臺記)
  鯉はさぞな烏賊さへのぼる春の雲 (拾扇説)
  今迄ははつきとしれぬ生れ年けふ定まるも又時節庵 (戲八龜)
  火をとりに來ぬ蚊は人に燒れけり (燒蚊辭)
  赤かれと西瓜いのらむ龍田姫 (星夕賦)
  捨かねん扇もこしの馴染より (七不思議後序)
  蚊屋つりてなほあまりあり草の庵 (庵記 
應曉吾需
  供花 そちむけて魂まねかせむ花すゝき (嘯花誄)
  拜禮 社齋に泣袖もなき夜寒哉 (同)
  神もうけよ酒過さじとせし御祓 (與某文)
  馬かたの寐たあともありつくづくし (旅論)
  月ひとつほしやほしやとたび乞食 (同)
  我紋の夜着にあふたる旅寐哉 (同)
  出女の口に蚊のよるくもりかな (同)
 
 

 

 
  (注) 1.  上記の「『鶉衣』の中の發句(俳句)等」は、岩波書店刊の日本古典文学大系92『近世俳句俳文集』(阿部喜三男・麻生磯次校注、昭和39年7月6日第1刷発行)所収の『鶉衣』から引用者が抜き出したものです。『鶉衣』の校注者は、麻生磯次氏です。          
    2.  大系本の凡例に、「『鶉衣』の木版本には十二册本と四冊本との二種あるが、本書は塩屋忠兵衛・塩屋弥七合梓の四冊本を底本とした。板下は十二册本と全く同様である」とあります。    
    3.  平仮名の「く」「ぐ」を縦に伸ばした形の繰り返し符号は、平仮名に直して記載しました。(「つくづくし」「ほしやほしや」)    
    4.  読みを補っておきます。(読みは、現代仮名遣いで示しました。)
 
團(うちわ) 廿日草(はつかぐさ) 絲瓜(へちま) 疝氣持(せんきもち) 剃(そり)てこそ  幽靈消(きゆ)る 六十(むそじ)てふ(ちょう) 夫(それ)だけの 飛ぶ翅(つばさ)あり  別(わかれ)しが 水の漚(あわ) 茶に語(かたり)し なほ殘(のこり) かへらんや不(いなや)  烏賊(いか)さへのぼる 魂(たま)まねかせむ 社齋(かみしも) 御祓(みそぎ) 
   
    5.  〇横井也有(よこい・やゆう)=江戸中期の俳人。名は時般ときつら。別号に野有、知雨亭・半掃庵など。尾張藩の重臣。多才多能の人で軽妙洒脱な俳文に最も秀で、俳文集「鶉衣」によって名高い。(1702~1783)
 〇鶉衣(うずらごろも)=俳文集。横井也有の遺稿。刊本12冊。前編1787年(天明7)刊、後編88年刊、続編・拾遺1823年(文政6)刊。和漢の故事をはじめ種々の材料を機知と技巧をもって軽妙な筆致で描く。
(以上、『広辞苑』第6版による。) 

   

  
 
       

       

 





             
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