資料27 立原道造の詩「のちのおもひに」         

 

 

      のちのおもひに

                       立 原 道

 

夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を


うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
──そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を

だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……


夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ

忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには


夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに

星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう

 

 

 

注)1.詩の本文は、岩波文庫版『立原道造詩集』(杉浦
    民平編・
1988年3月16日第1刷発行)によりました。
   
2.漢字は、常用漢字に改めました。原文は、勿論縦
    書きです。
   3.第2節の「──」は、原文では間に途切れのない
        直線(2字分)です。

   
4.この詩は、詩集『萱草に寄す』の中の一篇で、冒
    頭の「はじめてのものに」と対応する作とされてい
    
ます。
      5.「軽井沢高原文庫」に、1993年7月30日に除幕され
    たこの詩の詩碑(第1節)があるそうです。(これ
    については、「軽井沢文学サロン」をご覧下さい。)
   .立原道造については、「立原道造記念館」のホー
        ムページが参考になります。
    ただし、「立原道造記念館」は事情により2011年2
    月20日を以て閉館し、現在は立原道造記念会
    運営を引き継いでいるそうです。

   7.立原道造の詩は、メールマガジン「立原道造詩集」
    
や、電子図書館「青空文庫」で読むことができます。
      8.日本ペンクラブ「電子文藝館」では、詩集『萱草
    (わすれぐさ)に寄す』と『暁と夕の詩』を読むことが
    できます。
 
            → 詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す
  
     9.『つれづれの文車─趣味の文書室─』というサイト
        立原道造のページがあり、そこで岩波文庫か
           らとった彼の詩集を読むことができます。
    
            


     

      

               

 

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