資料244  家康遺訓(『尋常小学読本巻之七』より) 


 

        家 康 遺 訓        『尋常小學讀本巻之七』より

    家康は、其ひとゝとなり、心ゆるやかにして、博く人を愛し、能く兵を用ひ、又學問をも、好みたる人にして、天下を治むることに深く意を留め、且朝廷を尊び敬ひ、自ら節儉を主として、下をめぐめり。すべて、事を爲るには、必ず百年の後を謀り、種々の掟をも定めたれば、子孫、皆其敎を守りて、太平二百六十年餘もうちつゞきたり。
今、其遺訓といへるものをこゝに記す。
  人の一生は、重荷を負ひて、遠き道をゆくが如し、いそぐ可らず。不自由を常と思へば、不足なし。心に、望みおこらば、困窮したる時を思ひ出すべし。堪忍は無事長久のもとゐ、怒は、敵と思へ。勝つことばかり知りて、まくることを知らざれば、害其身に至る。己を責めて、他を責むるな。及ばざるは、過ぎたるよりまされり。  
 

 


  (注) 1.  上記の本文は、『日本教科書大系』近代編 第五巻 国語(二)(海後宗臣・仲新編纂。講談社、昭和39年3月10日発行)所収の『尋常小學讀本』によりました。    
    2.  『尋常小學讀本』は、文部省編輯局による編集で、『日本教科書大系』近代編 第五巻 国語(二)の凡例に、「本書は、明治二十年出版、文部省編、同省總務局圖書課藏版の和装本を原本として使用した」とあります。(同書、22頁)    
    3.   本文中の「として」「思ひ出す」は、それぞれ「むねとして」「おもひいだす」と読むのでしょうか。    
    4.  明治20年に発行された『尋常小學讀本 巻之七』は、広島大学図書館『教科書コレクション画像データベース』には入っていないようです。        
    5.  『国立国会図書館デジタルコレクション』の中に、先哲教訓  座右之銘』があり、その中にここに掲げた文章が徳川家康の「遺訓」として出ています。    
           

 




    
             トップページ(目次)