資料242  祇園精舎(『平家物語』冒頭)



        祇 園 精 舎
                   『平家物語』巻第一より

        
 祇園精舎の鐘の聲、諸行無常の響あり。娑羅(しやら)雙樹の花の色、盛者(じやうしや)必衰のことはりをあらはす。おごれる人も久しからず、只春の夜(よ)の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ。遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高(てうかう)、漢の王莽(わうまう)、梁の朱异(しうい)、唐の禄山(ろくさん)、是等(これら)は皆舊主先皇(せんくわう)の政(まつりごと)にもしたがはず、樂しみをきはめ、諌(いさめ)をもおもひいれず、天下(てんが)のみだれむ事をさとらずして、民間の愁(うれふ)る所をしらざ(ツ)しかば、久しからずして、亡(ばう)じにし者どもなり。近く本朝をうかゞふに、承平(せうへい)の將門、天慶(てんぎやう)の純友(すみとも)、康和の義親(ぎしん)、平治の信頼(しんらい)、おごれる心もたけき事も、皆とりどりにこそありしかども、まぢかくは、六波羅の入道前(さき)の太政大臣(だいじやうだいじん)平の朝臣(あ(ツ)そん)淸盛公と申(まうし)し人のありさま、傳(つたへ)承るこそ心も詞(ことば)も及ばれね。


  (注) 1.  上記の「祇園精舎」の本文は、日本古典文学大系32『平家物語 上』(高木市之助・小澤正夫・渥美かをる・金田一春彦校注、岩波書店 昭和34年2月5日第1刷発行、昭和39年1月30日第5刷発行)によりました。    
    2.   凡例によれば、上記の平家物語は、龍谷大学図書館所蔵の平家物語を底本とし、章節を分ち、段落を区切り、句読点の類を施し、傍らに漢字・仮名を振り、清濁を区別し、文字を若干改めた由です。校合には主として高良神社本と寂光院本とを用い、その他の諸本を参考にしたとあります。(詳しくは同書を参照して下さい。)
 龍谷大学本は、覚一本を転写した本の一つだということです。                  
   
    3.  平仮名の「く」を縦に伸ばした形の繰り返し符号は、仮名を繰り返して表記してあります。(「とりどり」)
 また、「娑羅雙樹」の「娑」は、「沙」とする本もあります。
   
    4.   平家物語(へいけ・ものがたり)=軍記物語。平家一門の栄華とその没落・滅亡を描き、仏教の因果観・無常観を基調とし、調子のよい和漢混淆文(わかんこんこうぶん)に対話を交えた散文体の一種の叙事詩。平曲として琵琶法師によって語られ、軍記物語・謡曲・浄瑠璃以下後代文学に多大の影響を及ぼした。原本の成立は承久(1219-1222)~仁治(1240-1243)の間という。成立過程には諸説あるが、早くから読み本・語り本の系統に分かれて異本を派生したと考えられ、前者には六巻本(延慶本)・二〇巻本(長門本)・四八巻本(源平盛衰記)など、後者には一二巻本に灌頂巻(かんじょうのまき)を加えた覚一本・流布本などがある。治承物語。平語。(『広辞苑』第6版による)           
    5.  フリー百科事典『ウィキペディア』「平家物語」の項があります。    
    6.  国立国会図書館の『デジタルコレクション』で、慶長年間に出版された『平家物語』が、画像で見られます。    
    7.  様々な系統の『平家物語』を、『菊池眞一研究室』読むことができます。
    →『菊池眞一研究室』
   
    8.   『風のきた道─清盛慕情─』というサイトがあって、ここに平家物語の解説や全文の現代語訳、その他があって参考になります。
 「平家物語全文現代語訳」「平氏系図」「平清盛年表」「平家物語登場人物総覧」「平家物語和歌総覧」 その他
 (現在、リンクが繋がらないようです。2012年6月16日)          
   
    9.  『Zaco's Page』というサイトに、「国語の先生の為のテキストファイル集」というページがあり、そこに『平家物語』の本文が入っています。(2012年5月25日付記)
 『Zaco's Page』
  →「国語の先生の為のテキストファイル集」
   
           







            トップページへ