資料222 文部省発行の新制高校用教科書『高等国語』の総目録




 

  文部省『高等國語』目録
               

高等國語 一上    昭和22年3月16日翻刻発行
           昭和23年4月13日修正翻刻発行

  一 藤村詩抄  島崎藤村
     
自序 序のうた あけぼの 潮音 秋風の歌 わしの歌 
     うぐひす 千曲川旅情の歌 労働雜詠 思ひより思ひをたどり 
     舟路

  二 笛吹川をさかのぼる  田部重治
      
汽車で甲府平を通る人は、だれでも笛吹川の荒涼たる流れの姿
     を見て、渾然
(こんぜん)としてうるおいに満てるその源流のおも
     かげや、その人爲の跡の入りこんだことのない完全さを、想像し
     得るものがおそらくはあるまい。
      かつて中村君、木暮君と、金峰
(きんぷ)山から雁坂(かりさか)
     までを縱走した時、秩父
(ちゝぶ)の範囲で最も私たちをひきつけ
     たのは、鷄冠山の異樣な風姿と、そのふもとにいやが上に深くく
     いこんでいる笛吹川の流域に立ち並ぶ、溶けてしたゝりそうな、
     からまつやしらかばの五月の色彩であった。甲信の國境にきっ立
     つ尾根からこの風貌
(ふうぼう)を見おろした時、私たちの願いは
     期せずして、いつかは笛吹川の溪谷
(けいこく)に分け入りたい、
     そして、谷をさかのぼって甲信の國境によじ、更に信州梓山
(あず
     
さやま)に拔けてみたいということだった。
      その翌々年の五月の末つかた、自然はまたも渾然とした色彩を
     もって現われるに至って、三人は、今度こそ、昨年果たさなかっ
     た笛吹川行きをぜひ決行しようということになった。
      新宿の停車場へ三十分も早く行って待っていると、藝術家氣分
     がようやく満ちかゝって來た中村君の衝動が、今までの決心をひ
     るがえしはしないかとの心配で、氣が氣でなかったが、しばらく
     して元氣よくやって來た。待ち遠い汽車がやがて來て、木暮君が
     鍾馗
(しょうき)のような顔を汽車の窓から出している。
      國分寺あたりからねむけがしきりに襲って、八王子と呼ぶ駅夫
     の声がおぼろげに聞える。初鹿野
(はじかの)、笹子(さゝご)を夢の
     中に過ぎて、勝沼
(かつぬま)で二人がしきりと歓声をあげているの
     で目を覚ますと、夜はすでに明けはなれて、南アルプスが斑々
(は
       んぱん)
たる雪はだを甲府平に表わしている。それから金峰山、そ
     れから秩父山脈と、なかなかいそがしい影どうろうの中を、汽車
     は塩山
(えんざん)に着いて、私たちはおりた。私たちを祝福して
     くれる五月の天候、どこを見てもみずみずしい緑のうるおいある
     色彩があふれて、もう心は甲信國境にかけるのみである。(以下、
     略)   

  三 太郎冠者       野上豊一郎
  四 記録映画の幻想性   津村秀夫
  五 東海道五十三次    岡本かの子


高等國語 一下    昭和22年10月25日翻刻発行

  一 案内者        寺田寅彦(『寺田寅彦随筆集』)
  二 ガラス障子   正岡子規(『子規全集』)
       
短歌・俳句・散文(九月十四日の朝)
  三 うつりゆく心   
日記  樋口一葉(『一葉全集』)
  四 ロダンの遺言 
     オーギュスト=ロダン原作、深田康算訳(『深田康算全集』)
  五 言語の本質   安藤正次(『古代國語の研究』)
  六 光栄の作曲家  ジュリアン=デュヴィヴィエ(監督) 
     
シナリオ(映画「運命の饗宴」より、清水晶の採録による)
  七 うさぎ     志賀直哉(『素直』)
  八 春が來た    天野貞祐(『私の人生観』)
  付 録 國語学習の手引

  
高等國語 二上    昭和22年3月31日翻刻発行
           昭和25年1月15日修正三版発行

  一 エッセイ    厨川白村
  二 枕草子抄 
正月十日  四月の晦日に  長谷寺にまうづとて
         五月ばかり山里にありく  九月ばかり夜一夜
         月のいとあかきに  虫は  降るものは
         雪いと高う降りたるを  にくきもの うつくしきもの

  三 談話       モンテーニュ原作、関根秀雄訳
  四 望郷五月歌   佐藤春夫
  五 ベニスの商人  シェークスピア原作、坪内逍遙訳
  六 万葉集抄
     
夕されば小倉(をぐら)の山に鳴くしかは……
     秋の野のみ草刈り葺く
(ふ)き宿れりし……
     熟田津
(にぎたづ)に船乘りせむと月待てば……
     東
(ひむがし)の野にかぎろひの立つ見えて……
     玉藻
(たまも)刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて……
     稻日野
(いなびの)も行き過ぎがてに思へれば……
     天ざかるひなの長道
(ながぢ)ゆ恋ひ來れば……
     石見の海 角
(つの)の浦回(うらみ)を ……
     石見のや高角
(たかつの)山の木の間より……
     さゝの葉はみ山もさやにさやげども……
     あしひきの山のしづくに妹待つと……
     あを待つときみがぬれけむあしひきの……
     磐代
(いはしろ)の浜松が枝をひき結び……
     家にあれば笥
(け)にもる飯(いひ)を……
     いはばしる垂水
(たるみ)の上のさわらびの……
     あしべゆくかもの羽がひに霜ふりて……
     天地の わかれし時ゆ 神
(かむ)さびて 高く貴き…… 
     田兒
(たご)の浦ゆうち出でて見れば……
     わかの浦に潮満ち來れば……
     み吉野
(よしの)の象山(きさやま)の際(ま)の木末(こぬれ)には……
     ぬば玉の夜のふけゆけば……
     春の野にすみれつみにと來しわれぞ……
     猟高
(かりたか)の高円山(たかまとやま)を高みかも……
     ぬばたまの夜霧の立ちて……
     憶良らは今は罷らむ子なくらむ……
     父母を 見れば尊し 妻子
(めこ)見れば ……
     ひさかたの天道
(あまぢ)は遠し……
     うり食
(は)めば 子ども思ほゆ ……
     銀
(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに……
     秋の野に咲きたる花を……
     はぎが花をばなくずばな……
     春の花くれなゐにほふもゝの花……
     わが園のすもゝの花か……
     春の野にかすみたなびきうらがなし……
     わがやどのいさゝ群竹
(むらたけ)吹く風の……
     雲がくり鳴くなるかりの去
(ゆ)きてゐむ……
     雨ごもりこゝろいぶせみ出で見れば……
     雨晴れて淸く照りたるこの月夜……
     白珠
(しらたま)は人に知らえず知らずともよし……
     きみがため手力
(たぢから)つかれ……
     春日なる三笠の山に月の船出づ……
     鳰鳥
(にほどり)の葛飾早稻(かつしかわせ(にへ)すとも……
     信濃道
(しなのぢ)は今の墾道(はりみち)……
     いねつけば皹
(かゞ)るあが手を……
     わが妻はいたく恋ひらし……
     わが妻も絵にかきとらむ暇
(いつま)もが……
     父母がかしらかきなで幸
(さ)く在(あ)れて……       
  七 赤がえる    島木健作
  八 自己と独創   三谷隆正


高等國語 二下    昭和22年9月26日翻刻発行
           昭和25年5月15日四版発行

    一 文章を学ぶ者のために  島崎藤村
        「
桃の雫」「市井にありて」「春を待ちつゝ」「飯倉だより」より
  二 新しいことば  
            新しいことば  河井醉茗(『醉茗詩抄』より)
      日のおちぼ    蒲原有明(『有明詩抄』より)
      からまつ      北原白秋(『白秋詩集』より)
      老漁夫の詩    山村暮鳥(『暮鳥詩集』より)
      存在の独立    野口米次郎(『山上に立つ』より)
  三 神曲       ダンテ原作、竹友藻風訳(『神曲』)
       
われひとのいのちのみちのなかごろに、
        ますぐなる道あと絶えてなかりける、
        くらやみの森をよぎりて、われありき。
        …………

  四 あるがままに   倉田百三(『絶対的生活』)
  五 自由を護った人  放送劇台本、村上元三
  六 源氏物語
     
 小はぎがもと
      「もののあはれ」について  和辻哲郎(『改訂日本精神史研究』)


高等國語 三上    昭和23年4月6日翻刻発行
           昭和26年1月15日三版発行

  一 奥の細道抄   松尾芭蕉
      門出 白河 松島 平泉 立石寺 最上川 象潟
  二 寒山拾得    森 
外(『外全集』)
  三 シェークスピアの女性観  豊田 実(ラジオ放送原稿による)
  四 天上の序曲   ゲーテ 阿部次郎訳(『ファウスト』による)
  五 ガラス戸の中  夏目漱石(『漱石全集』)
     
一 ガラス戸の中から外を見渡すと、……
     二 私はその女に前後四、五回会った。……
     三 私がまだ小学校に行っていた時分に、喜いちゃんという……
     四 世の中に住む人間の一人として、……
     五 きょうは日曜なので、子供が学校へ行かないから……

  六 年來稽古    世阿彌(『風姿花傳』)
      七歳 十二、三より 十七、八より 二十四、五 
      三十四、五 四十四、五 五十有余
  七 國民的文学と世界的文学  土居光知(『文学序説』)
  附 録 國語学習の手引


高等國語 三下    昭和23年8月17日翻刻発行
          

  一 自然と人生             
     
私が観察を始める時   ひとりのでしに  忍耐強いしずかなくも
      ワルト=ホイットマン原作、有島武郎訳(『ホイットマン詩集 
       草の華』) 
     天地の心  洪自誠原作、魚返善雄訳(『菜根譚』)
     風雅の誠  ばせを「柴門の辞」、他に「三冊子」「去来抄」より

  二 姉と弟
      ロマン=ローラン原作、豊島與志雄訳(『ジャン=クリストフ』)
  三 詩についてのぼくらの立場から  中村眞一郎
  四 つきあひは格別  井原西鶴
      
大晦日は合はぬ算用 (『西鶴諸國咄 巻一』)
      買ひ置きは世の心やすい時 (『日本永代藏 巻六』)

  五 富士山頂     橋本英吉(『富士山頂』)
  六 舞台装置と演出  小山内薫(『舞台藝術』)
  七 八雲たつ  
古事記・播磨風土記・日本書紀より7つの文章
  八 柱時計      島崎藤村(『嵐』)
       

 

 

                   

 

 
  (注) 1.  上記の教科書総目録は、戦後、新制高校で使われた文部省著作の教科書『高等国語』の総目録です。         
    2.  発行年によって、幾分教材に違いのある箇所があるようです。  
    3.  『高等国語 一上』所収の「笛吹川をさかのぼる」について。
 (1)岩波文庫に『新編 山と渓谷』
(1993年8月18日第1刷発行)があります。「秩父の旅」の一編として「笛吹川を溯る」が出ています。この山旅は、大正4年5月、筆者が大学で教鞭をとるかたわら行われたものです。
 なお、本文には改訂が施されていて、教科書掲載の文章と厳密には同一ではありません。

 この文章は、初め大正5年10月、日本山岳会の機関誌『山岳』第11年第1号に掲載され、後に筆者にとっての最初の山岳紀行文集である『日本アルプスと秩父巡礼』(大正8年6月8日発行)に収録された由です。(岩波文庫『新編 山と渓谷』の巻末「解説」(筆者・近藤信行氏)による。)
 (2) 田部重治(たなべ・じゅうじ)=登山家・英文学者。富山県生れ。旧姓、南日。東大卒。東洋大・法政大などの教授を歴任する一方、登山紀行を発表、特に奥秩父の美を紹介。著「日本アルプスと秩父巡礼」など。 (1884-1972)(『広辞苑』第6版による)                        
   
 
(3) この「笛吹川をさかのぼる」という文章は、小学校(国民学校)時代の「燕岳に登る」と同じように、私たちには大変懐かしい文章なので、上に思わず長々と引用してしまいましたが、まだ著作権が切れていないので、残念ながら全文を掲載することができません。           
 
    4.  お気づきの点を教えていただければ幸いです。  
         

  



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