1.連歌その心自然に顯はるゝ事 『耳袋』巻の八より
古物語にあるや、また人の作り事や、それは知らざれど、信長、秀吉、恐れながら神君御參會の時、卯月のころ、いまだ郭公を聞かずとの物語いでけるに、信長、 鳴かずんば殺してしまへ時鳥 とありしに、秀吉、 なかずともなかせて聞かう時鳥 とありしに、 なかぬならなく時聞かう時鳥 とあそばされしは神君の由。自然とその御德化の温順なる、又殘忍、廣量なる所、その自然をあらはしたるが、紹巴もその席にありて、 なかぬなら鳴かぬのもよし郭公 と吟じけるとや。
2.鳴かぬなら…… 『甲子夜話』五十三より
夜話のとき或人の云けるは、人の仮托に出る者ならんが、其人の情実に能く恊へりとなん。 郭公を贈り参せし人あり。されども鳴かざりければ、 なかぬなら殺してしまへ時鳥 織田右府 鳴かずともなかして見せふ杜鵑 豊 太 閤 なかぬなら鳴まで待よ郭公 大権現様 このあとに二首を添ふ。これ憚る所あるが上へ、固より仮托のことなれば、作家を記せず。 なかぬなら鳥屋へやれよほとゝぎす なかぬなら貰て置けよほとゝぎす |