資料15 伊良子清白の詩「安乗(あのり)の稚児」       

 



 

 

    安乗の稚児

 

 

                      伊良子 清白

志摩の果(はて)安乗(あのり)の小村(こむら)
早手風(はやてかぜ)岩をどよもし
柳道木々を根こじて
虚空
(みそら)飛ぶ断(ちぎ)れの細葉(ほそば)

水底(みなぞこ)の泥を逆上げ
かきにごす海の病(いたづき)
そゝり立つ波の大鋸(おほのこ)
(よ)げとこそ船をまつらめ 

とある家(や)に飯(いひ)(むせ)かへり
(を)もあらず女(め)も出(い)で行(ゆ)きて 
稚児ひとり小籠に坐り
ほゝゑみて海に対(むか)へり

荒壁の小家(こいへ)一村(ひとむら)
反響(こだま)する心と心
稚児ひとり恐怖(おそれ)をしらず
ほゝゑみて海に対へり

いみじくも貴き景色

今もなほ胸にぞ跳る
(わか)くして人と行(ゆ)きたる 
志摩のはて安乗の小村 

 

 

 

 

 

   

 

注) 1.岩波文庫『孔雀船』(1938年4月5日第1刷発行、1981年4月10日
     第5刷発行)
によりました。
    2.もとの表記は勿論、縦書きです。漢字は、常用漢字に改めました。
    3.上記の本では、上の詩のすべての漢字にルビが付けてありますが、
           
引用するにあたって一部を省略し、( )の形で読みを示しました。
    4.初出では、第3節の「稚児」「坐り」及び第4節の「稚児」が、それぞ
           れ「稚子」 「座り」となっていました。
    5.初出は『文庫』29巻6号
(明治38年9月)。『孔雀船』は、多くの作品
           の中から僅
か18編を厳選した詩集で、この詩は、その『孔雀船』に収
           められたものです。    
    6.伊良子清白(いらこ・せいはく)=詩人。本名、暉造
(てるぞう)。別号、
           すずしろのや。鳥取県生れ。三重県鳥羽で医業のかたわら詩作。抒
           情と精妙な詩句で注目される。詩集「孔雀船
(くじゃくぶね)」。(1877
            〜1946)                    
(『広辞苑』第6版による)
    7. 『国立国会図書館デジタルコレクション』で、
『孔雀船』(佐久良書
    房、明治39年5月5日発行)
を見る(読む)ことができます。
       
「安乗の稚児」は、 74〜76 / 106 にあります。
    8.安乗崎灯台の周辺の安乗崎園地に、「安乗の稚児」の詩碑があり
     ます。その写真が、志摩市観光協会のホームページに出ています。
      碑面には、「安乗の稚児 伊良子清白 荒壁の小家一村 反響す
     る心と心 稚子ひとり恐怖をしらず ほゝゑみて海に対へり」と書か
     れています。
        → 
志摩市観光協会 → 伊良子清白の詩碑
    9.『伊勢志摩 きらり千選』というホームページに、伊良子清白が小浜
     診療所医師として23年間在住した鳥羽市小浜町の城山に建つ、この
     詩の第2節を刻した詩碑の写真があります。「水底の泥を  逆上げ かき
            にごす海の病 そゝり立つ波の大鋸 
過げとこそ船をまつらめ」
      → 
『伊勢志摩 きらり千選』 → 「小浜城山と伊良子清白の詩碑」
   10.フリー百科事典『ウィキペディア』に、「阿児町安乗(あごちょう・あのり)
     の項があって参考になります。
        → 
『ウィキペディア』  → 「阿児町安乗(あごちょう・あのり)

 

 

 

 

 

 

 

 

                      

 

 

 

 

 

 

 

     
                             
                       
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